2003年2月18日 (社)日本経済団体連合会 情報通信委員会情報化部会 |
現在、内閣のIT戦略本部では、専門調査会を設けて、IT戦略の今後のあり方について精力的に検討を進めている。
昨秋に日本経団連の情報通信委員会が実施した「e-Japan戦略」のあり方に関するアンケート 注1) では、わが国のIT戦略釈�蓿繙就�粮㏍芍��轣蛹≒鳫�笏蜿遐�竚癈鷭∂焜聨纃瘟赧漓�籬�㏍聽轣蛹就鬼薫堰唄戟橋姥⊂桿轣蛹Γ蔚飴頏阡繝�籟鹿畩は10段階評価で6点に満たないという結果が出ており、これまでの取組みは決して十分なものではない。新戦略の検討にあたっては、ITを活用して「元気・安心・感動・便利社会を実現する」ことが謳われているが、まずは、積み残しの課題、すなわち「やるべきこと」をきちんと実現することが不可欠である。特に、効率的で質の高い「一つの」電子政府を実現しないまま、新たな戦略を描くことは、画竜点睛を欠くことになりかねない。
そのような問題意識から、日本経団連として予ねて強く主張してきた電子政府の実現 注2) を中心に、新戦略の下で取りあげるべき課題をとりあえず以下に整理した。専門調査会における原案作成にあたって十分考慮されることを要望する。
なお、日本経団連としては、来月に改めて新戦略に関する提言を取りまとめる予定である。
行政手続のオンライン化法が成立、施行されるなど取組みが進展しているが、電子化が半ば目的化しており、業務改革、省庁横断的な類似業務・事業の整理などが未だ不十分である。「業務改革なき電子化」は不要な業務や手続きを温存することになるなど、かえって弊害が大きい。国・地方を通じて、申請・届出手続など国民や企業との接点業務(フロントオフィス業務)および給与、調達など各組織共通の基幹業務(バックオフィス業務)の効率化を加速すべきである。くれぐれも「一つ一つバラバラな電子政府・自治体」、「利用されない大きな電子政府」を作るようなことのないようにしなければならない。
その上で「一つの」電子政府を活用して、国民や企業のニーズに柔軟に応えた電子行政を展開すべきである。「インフラ整備から利活用へ」というのが今回のIT戦略見直しの主なテーマであるが、「電子政府から効率的で利用しやすい電子行政へ」という課題こそ、その中心に据えられるべきである。
昨年9月に設置が決定された各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議が、国民の利便性・サービスの向上、IT化に対応した業務改革などの課題について11月より検討を開始しているが、行政サービスのユーザーとしては、下記の取組みを求めたい。
業務改革による行政コストの削減
フロントオフィス業務においては、行政手続毎に必要性を検証し、不要なものは廃止。必要なものでも極力簡素化、統合。関連する行政手続について、手続・制度の改革方策を立案し、期待できる効果の事前評価を義務づけ、効果の高いところから予算化・実施。事後評価は、電子化される行政手続の数ではなく、電子化によって、何が、どう変わり、どのような便益がもたらされるのかを指標として実施。全体で行政コストを半減。業務改革により節減された費用の一部は、例えば後述の情報セキュリティ対策に充当。
この点、日本経団連として予ねて主張している輸出入・港湾諸手続のワンストップサービスを「業務改革のベストプラクティス・モデル」とすべく、強力に推進(日本経団連では、2001年9月以降、5回にわたり、内閣官房、財務省、国土交通省など所管府省と連絡協議のための意見交換会を開催)。本件については、全ての手続を統合し、1回の入力・送信で複数の申請を可能とするシングルウィンドウシステムを、2003年度のできるだけ早期に供用開始することが決定されているが、電子化に先立って行うべき業務改革を一層推進することが必要。
バックオフィス業務においては、オープンな情報システムの調達によってライフサイクルコストを削減。また、ライフサイクルコストに基づき一般競争入札を実施。インセンティブ付契約等を導入。外部専門家の活用など調達側の体制を強化。さらには、国家・地方公務員給与の全員・全額振込化を推進。
地方公共団体においては、共同利用・共同運用システム化を推進。
中央省庁・地方公共団体のシステムの標準化
各府省、地方公共団体間で電子申請・入札・納付等のシステムの仕様が異なる場合、システムを新たに導入する都度、整合性確認、動作検証、企業内システムの変更・増強、マニュアル整備、社内教育・説明等の負担が企業に発生。そのようなことにならないよう、これらシステムを標準化。その際、活用可能な民間のシステムが存在する場合は、その方式に準拠。
また、公印管理部門の負担増大等を回避するため、代表者以外の者による申請・届出を可能化(属性認証、代理申請)。
利用しやすい電子政府の実現
各種のワンストップサービスを実現。また、企業関係の重要事項・手続(起業、承継、事業拡張、廃業等)など重要イベント別行政ポータル機能を整備。電子的手段を利用した場合に手数料、税額等を割引きするなどインセンティブ措置を導入。さらに、行政機関等のデータベース、国土時・空間情報、文化情報などを整備し、民間利用の自由度を拡大。
先月下旬、世界規模でネット障害が発生した。わが国への影響は、韓国に比べて小さくて済んだが、既知の対策を施していれば、感染被害を受けず、被害の拡大やネット障害にもつながらなかったと言われており、改めて情報セキュリティ確保のための継続的な取組みの重要性を認識させる事件であった。
誰もが自由に取引やコミュニケーションを行えるネット社会において、「安全」は与えられるものではなく、ネットワーク参加者全員の努力で作りあげていくものであり、個々の参加者が情報セキュリティの重要性を認識し、そのためのコストを分担していくことが不可欠である。とりわけ情報システム等の最大のユーザーである企業の果たすべき役割と責任は大きく、一企業が情報セキュリティ対策を怠ったばかりに、他の多くの参加者を危険に晒すことのないようにしなければならない。
一方、電子政府は、ネット社会の最重要インフラであり、その信頼性を確保できるか否かで、わが国の情報セキュリティに対する姿勢および対策水準が判断されることになる。政府は、企業と異なり、競争原理が機能しないだけに、率先して以下のような対策を講じることが不可欠である。その際、外部の専門家を活用することが重要である。
国・地方共通の情報セキュリティポリシーの策定と継続的改善
国・地方公共団体共通の基本方針(情報セキュリティポリシー)を策定(Plan)、基本方針に基づく計画に従って対策を実施・運用(Do)、実施した結果を監査(Check)、組織トップによって計画、基本方針を見直し(Act)。このPDCAサイクルを継続的に繰り返すことによって、高度なセキュリティ水準を確保。その際、情報システム系だけでなく、職員等に対する定期的な教育の実施など人間系も含めた包括的な対策を実施。また、外部監査を継続的に実施。
地方の情報システムの共同利用・共同運用システム化
各地方公共団体が個々に情報システムを開発するのではなく、セキュリティ水準の高い数個の共同利用・共同運用システム化を推進。
なお、企業、個人の自主的な情報セキュリティ対策を補完すべく、併せて以下に取り組む必要がある。
高齢化、交通渋滞・事故など現代社会が直面する課題については、従来、国費や法制度などを前提とした官中心の社会システムの中で解決が図られてきたが、それら前提がいずれも深刻な行き詰まりを見せており、既存のシステムだけでは対応が困難となっている。
前述のアンケートでは、e-Japan戦略を推進する上で最も重要なことは官民の役割分担であるとの指摘がなされている。官による民への不必要な介入を排除するという意味で規制の撤廃・緩和は引き続き重要な課題であり、構造改革の柱であることは言うまでもない。しかし、上記課題に対応するためには、官と民との境界線の明確化にとどまらず、これまで官が担ってきた「公」を、意志と能力のある民が補完、代替できるようにし、新たなサービスの創出、新たな価値の創造を促していく必要がある。そうした「官と民の協業」、「官から民へのチャネルシフト」をITによって支援し、社会問題を解決する「電子社会システム」の実現が求められている。それに向け、当面以下のような施策が必要である。
商品の製造、流通、販売、リサイクルなどライフサイクル全体にわたるトレーサビリティ確保のための消費者本位の業界横断的なルールづくりを関係省庁が連携して支援する。その際、各方面で進められている標準化との連関に留意する。また、商品のトレーサビリティへの活用が見込まれる無線タグ(RFID)については、国際的に調和のとれた周波数を割当てることが期待される。
現在、JIS漢字コードで規定され、コンピュータ上で利用されているのは、6,879字である。規格外の文字(外字)については、コンピュータベンダーあるいは個々のユーザーが独自に登録、使用しているため、他システムとの接続や他者とのデータ交換を行う場合には、コード変換が必要となる。したがって、JIS漢字コードで規定する文字数を拡大すれば、コード変換の手間とコストを削減でき、データ交換、電子商取引をはじめITの利活用を推進することができる。
また、住民基本台帳ネットワークにおいては、外字を極力カバーする方向にあり、その場合、企業も同様の外字対応を迫られることになる。JIS漢字コードで規定する文字数を拡大しても、なお多くの外字が残ることから、外字取扱いルールを明確化することによって、ネットワーク上の情報流通を円滑化する必要がある。
行政上の要請等から多種多様な文書の長期保存が必要とされているが、それらを電子化した場合あるいは電磁的に作成された文書を保存する場合、原本性をいかに確保するかが重要な課題となる。企業では電子署名など電子認証関連技術でこれを担保しているが、暗号解読技術の進展などによって長期保存に耐えられなくなるなどの事態も想定される。そこで、原本性保証のための要件を明確化することによって、電子文書の証拠能力を確保する必要がある。
- 注1)
- 「『e-Japan戦略』のあり方に関するアンケート結果」
(2002年11月7日IT戦略本部会合提出資料、 http://www.keidanren.or.jp/japanese/profile/topics/info/200211.html )
- 注2)
- 「『一つ』の電子政府実現に向けた提言-デジタル・オポチュニティを個人・企業・社会に開くために」
(2000年8月2日、http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2000/037/index.html )
「電子政府実現に向けたIT投資と行政の業務改革の同時実施について」
(2000年9月20日IT戦略会議・IT戦略本部合同会合提出資料、 http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2000/047.html )
「『e-Japan戦略』実現に向けた提言-「やるべきこと」を迅速に実現する「重点計画」を求める」
(2001年2月20日、http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2001/010/index.html )
「e-Japan重点計画の見直しにあたって」
(2002年4月9日IT戦略本部会合提出資料、 http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2002/015.pdf )
- 注3)
- 「2002年度日本経団連規制改革要望-産業競争力の強化と経済の活性化にむけて」
(2002年10月15日、http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2002/062.html )