中央環境審議会地球環境部会 国内制度小委員会 |
委員長 安 原 正 殿 |
(社)経済団体連合会 環境安全委員会地球環境部会 |
部会長 寺 門 良 二 |
第5回、第6回国内制度小委員会の提出資料および議論について、以下のとおり意見を申し述べます。
「温室効果ガス排出の少ない産業構造へと政策的な誘導を図ることが重要である」(資料1-1p.24)とあるが、計画経済体制であればともかく、市場主義経済体制をとるわが国において、このような政策誘導を行うというのは、きわめて非現実的である。
現在、経済諮問会議等において、市場における競争原理を梃子として産業を活性化させ、デフレスパイラルに歯止めをかけ、わが国経済社会を再生させる方策が検討されている。こうしたなか、わが国産業の将来を環境の論理のみで論じるべきではなく、環境と経済が両立し得る政策を立案する必要がある。
中央環境審議会、産業構造審議会、総合資源エネルギー調査会において、それぞれ温暖化対策が議論されているが、議論の前提が統一されていない。政府部内で見解を統一すべきである。
各審議会の基準ケース
環境省と経済産業省の各審議会が、各々温暖化対策の審議を行なっており、対策実施の前提となる「基準ケース」も異なったものが提示されている。今回のような重要な議論を行うに当たって、両省が知見や知恵を出し合い、協力してより良い方向を提言すべきであり、早急に議論のすり合わせを行うべきである。
経団連自主行動計画のレビュー
経団連自主行動計画については、毎年、政府の関係審議会合同会議において学識経験者や環境NGOなどから構成される第三者のレビューを受けている。この内容に対し環境省として批判があるのであれば(資料1-2p.13)、関係審議会合同会議において指摘すべきである。
地球温暖化対策推進大綱は、政府が、経団連自主行動計画(1990年度比0%)を前提に、策定したものであり、自主行動計画の「目標設定が低い」(資料1-2p.11)という指摘は事実誤認である。
産業部門は、国際競争にさらされるなか、何とか競争力を堅持しながら、日々、CO2排出削減努力を継続している。そうした取り組みをほぼ全面的に否定するような記述には、到底承服しかねる。
数値目標の不一致
自主行動計画は、各々の業を最もよく知る事業者自身が、実情に最も即した方法で目標を設定するものであり、原単位か総量といった統一的な目標の設定を強制(資料1-2p.11)することは趣旨に反する。
目標未達成の可能性
「経団連の目標とする1990年度レベル以下の達成はすでに難しい」(資料1-2p.12)というのは、自主行動計画の趣旨を履き違えた表現といわざるを得ない。現状のBAU(特段の対策を講じないケース)に対して削減努力を進めるのが、自主行動計画の趣旨である。
フォローアップ要因分析の根拠
「2000年11月の経団連のフォローアップの要因分析では、業界の自己努力による削減を2.1%としているが、この数値の根拠は必ずしも明らかではない」(資料1-2p.21)というのは、誤った認識である。経団連は、別紙1のとおり、要因分析の根拠となる考え方を公表している。理解の一助としていただくべく、より詳細な説明を別紙2として添付する。
環境税、協定化、国内排出量取引の導入には、産業界は絶対反対である。他国での実施例が縷縷挙げられているが、それぞれの国には固有の事情があり、他国で導入されているからといって、それがわが国にとっても適切な制度であるとは限らない。
環境税
環境税は石油危機前後のエネルギー価格の動向とガソリン、電力の需要推移など過去の例をみても、そのCO2排出抑制効果は疑わしい。欧州の導入国で行われた税によるCO2削減効果に関する分析事例においても、CO2排出が減少した国はなく、むしろ増加傾向にある国もあり、十分な効果をあげたとは言い難い。
CO2の排出抑制につながるような高い税率を設定した場合には、産業の国際競争力の低下を招くとともに、省エネのための技術開発や設備投資の資金原資を流出させるなど、「二重の負担」を強いることとなり、成果をあげている産業界の自主的な取り組みを阻害することとなる。たとえ低税率であっても、巨額の税負担となり、省エネ投資も実行できなくなる。また、エネルギー効率の低い国における生産が増加し、かえって地球規模でのCO2増加を招くという矛盾も生じる。
環境税は、国の歳出入構造の抜本的見直しのなかで議論すべき問題である。
協定化
従来、わが国で行われた協定は、行政指導により柔軟性が失われ、規制的、拘束的な意味合いの濃い、片務的なものとなっている。したがって、自主的取組みのメリットである柔軟性を損なうものである。
なお、英国はBAU(特段の対策を講じないケース)でも京都議定書目標を過達成することが見込まれる等、そもそもエネルギー効率の改善余地は大きく、様々な対策の選択肢を有している。また、ドイツも、東西ドイツ統合以降、旧東独地域におけるエネルギー効率の向上が進み、温室効果ガスの排出削減が順調に進んでいるが、英国同様対策をとる余地は大きい。これらの国々と、既に90年までに高いエネルギー効率を達成し、これ以上の省エネ対策の余地が限られているわが国を同列に論じるのは無理がある。
国内排出量取引制度
強制的な排出枠の割当を前提とした国内排出量取引制度の構築は、極めて経済統制的であること、公平性の確保が難しいこと等から反対である。
英国はBAU(特段の対策を講じないケース)でも京都議定書目標を過達成することが見込まれる等、そもそも対策の余地は大きく、また、国内排出量取引制度も、エネルギー効率の大幅な改善余地があることを背景として導入したものであり、強制的な排出枠の割当を前提としたものではない。デンマークの国内排出量取引制度も、燃料転換が容易といった事情を背景とした上、対象を電力会社間に限定した特殊なものであることを十分認識する必要がある。
別紙3を参照されたい。
「本小委員会では、ケース2をもとに検討を行った」(参考資料1-1p.3)とあるが、理由が不明である。
温室効果ガス削減技術シナリオ策定調査検討会における検討と同じように、原子力発電所の増設が13基の場合と7基の場合の2ケースについて検討し、原子力発電の温室効果ガス削減技術としての効果を客観的な数値として示すべきである。
「制度的制約等のため現時点で導入可能性が危ぶまれる対策は除外した」(参考資料1-1p.5)とあるが、そもそも計画ケースで見込まれていない対策は全て何らかの制約があるものと考えられる。それを明らかにし、どのような方策を採れば普及が進むのかを検討するのが目標達成シナリオ小委員会の目的であるならば、特定の対策を除外すべきではない。
また、原子力発電の利用率向上が除外されているが、原子力の利用率向上策としては、定格熱出力一定運転や長期サイクル運転が原子力安全・保安院等での検討課題として挙げられている。したがって、原子力発電の利用率向上は、いずれにしても除外すべきでない。