日本経団連(奥田碩会長)は21日、2025年を目途に税・財政を含めた社会保障制度の一体的改革の方向性を示した「社会保障制度等の一体的改革に向けて」と題する提言を発表した。同提言の最終的な目標は「自助努力を基礎とした社会の実現」。そのために、潜在的国民負担率が将来にわたり50%となることをめざした改革を進めるとともに、個人番号制や社会保障個人別の会計を導入するなどの基盤整理によって、適用・負担の不公正の解消と、負担と給付の公平・効率化を図るよう提言している。今後、日本経団連は同提言に基づいて個別制度改革の詳細な提案を行っていくとともに、さまざまな場を通じて、意見反映や実現を働きかけていくこととしている。同提言で示している個別制度改革の方向性は次のとおり。
低所得者層への配慮をしつつ、高齢期における最も基本的な生活費部分を年金に集中するとともに、入院時や介護保険施設入所時の食費・居住費相当部分は自己負担とする(医療保険・介護保険の給付対象から外す)。
改正年金法に基づいた給付費からさらに5%抑制することを含め、現行の医療・介護保険制度等を改革しなかった場合の給付費に対して、20%程度の抑制が必要である(国・地方の歳出抑制が前提)。
「税方式+所得比例給付」という2階建てが基本。1階部分は税を財源に、食費・居住費など、高齢単身者の生活費の最も基本的部分に相当するよう設計。2階部分は保険料固定方式とし、被用者年金の保険料率は15%相当で固定する。
医療分野でのIT活用により情報開示を進め、医療の標準化や診療報酬の包括払い、いわゆる混合診療の容認などで医療費の適正化を図る。高齢期の医療保険制度は、65歳以上を対象に、独立した財政責任主体を保険者とし、給付の財源は、少なくとも5割を公費で、残りを高齢者自身の保険料と65歳未満の若年者からの支援金とする。給付割合は、若年者の医療保険制度とバランスをとり、外来7割、入院8割とする。
要介護状態の防止・軽減等を図るよう給付の重点化を進め、高齢期の医療保険とのバランスをとった負担とする。入院から介護保険施設への入所、さらに在宅での療養・介護サービス受給への流れを強め、全体として効率化を進める。
本体事業は、失業による所得の喪失に対する補償という目的に極力限定する方向で制度を見直す。
生活保護制度は、所得・資産、稼働能力を十分調査の上、真に生活に困窮している者への給付に限定する。
日本経団連はかねてより、社会保障制度の一体的な見直しが必要であると主張し、今年4月26日に奥田会長が小泉純一郎首相を訪問した際にも、社会保障制度全般について、税・保険料などの負担と給付のあり方を含めた一体的な見直しが必要であることから、政府は社会保障見直しに着手して実現を図るべきであることなどを要請した(4月29日号既報)。これを受けて、今回の年金改正法では、社会保障制度全般について、税・保険料等の負担と給付のあり方を含めた一体的な見直しを行いつつ、公的年金制度について必要な見直しを行う旨の附則修正が追加された。さらに8月には、「社会保障の在り方に関する懇談会」(8月5日号既報)が新設された。こうした経緯を踏まえ、今回の提言は、社会保障制度の一体的改革に向けて、日本経団連の取り組みの方向性を示したものとなっている。