経営タイムス No.2681 (2003年6月26日)
日本経団連の住宅政策委員会(和田紀夫委員長)は17日、今後の住宅政策のあり方に関して「『住みやすさ』で世界に誇れる国づくり」と題する提言を発表した。同提言は、住宅政策を国家戦略と位置付け、政策全般について幅広く取り上げて、具体的に講じるべき施策をまとめたもの。具体策の骨子としては(1)活力とゆとりが生まれる住宅の建設・建替えの促進(2)ライフステージに応じた循環型市場の構築(3)安全・安心・快適・元気溢れる街づくり――の3点を挙げている。政府・与党、関係省庁などに建議するとともに、経済界としてもその実現に努めていくこととしている。
同提言ではまず、住宅を取り巻く環境変化として、(1)成熟社会の到来(2)本格的な少子・高齢社会の到来(3)環境制約の高まり(温暖化防止・廃棄物削減の必要性)(4)安全・安心・快適・元気ニーズの高まり(5)行財政改革への対応(住宅金融公庫、都市基盤整備公団の改革など)――があると分析。
これを受けて、良質な住宅・住環境は重要な社会インフラとして位置付け、国家戦略として住宅政策を推進すべきであるとの基本方向を打ち出している。住宅は個人の資産ではあるが、同時に経済活動、社会生活の基盤でもあり、経済波及効果の大きい住宅・住環境の整備は経済・社会の発展と安定に欠くことができない国家的課題であるというのが、その考え方。
こうした観点から、住宅・住環境を含めた整備目標、国・地方自治体・民間の役割などを提示した「住宅・街づくり基本法」の制定や「住宅投資減税」の実現など、大胆な施策の実施を要望している。
提言している具体策の第1は、住宅の量よりも、質の向上をめざし、活力とゆとりが生まれる住宅ストックの形成を図ること。その最も大きな柱は、住宅取得支援税制で、「住宅投資減税」の導入を要望している。住宅投資減税とは、社会インフラとしての住宅に着目し、自己資金を含めた住宅投資額に対して、一定の減税措置を講じるというものである。
また、住宅金融公庫が2007年までに廃止され、住宅金融市場が官主導から民主導のマーケットへと大きく転換していくことから、民間金融機関が長期・固定・相対的低利の住宅ローンを提供できるように、官民が協力して公庫の証券化支援業務を活用した証券化型住宅ローンの普及に積極的に取り組む必要があることも提起している。
このほか、1980年以前に建築され、新耐震基準を満たしていない住宅の耐震性向上を図るため、10年間の時限措置として耐震診断・改修費用の補助、容積率緩和などの対策を講じることや、省エネ・IT・セキュリティ対策など革新的技術の住宅への導入を促進すること、住宅性能表示制度を普及・充実させることなどを謳っている。
具体策の第2である、ライフステージに応じて国民が住み替えることを容易にする循環型住宅市場の構築についてはまず、安心して売買・賃貸ができる既存住宅市場の整備が重要との考えから、住宅の質や管理状況などが反映される価格査定システムの構築や、さらなる情報開示、住宅税制に係わる築年数要件の見直しなどを提言している。
さらに、良質な賃貸住宅市場、高齢者向け住宅の整備のため、一定以上の要件を満たす優良な賃貸住宅に対する割増償却の拡大、高齢者が持家を処分した際の譲渡所得課税の軽減といった各種税制の優遇措置を講じるよう求めている。
具体策の第3である安全・安心・快適・元気溢れる街づくりではまず、密集市街地改編の必要性を提言。都市圏における震災が、被災地だけでなく国の経済全体に深刻な影響を与えることから、防災性の高い街へ改編するために、10年間の時限措置として、公共の福祉の観点から私権の制限を強化することや、官民の資源を集中的に投入して密集地域の改編を促すことを訴えている。
また、各種の社会的要請に応えられる地域コミュニティの存在が重要であるとして、住宅、オフィス、店舗、さらには病院・ケアハウスなどの福祉機能、学校などの教育機能などの複合機能を持ち、歩いて暮らせるコンパクトな街づくりをめざすとともに、地域コミュニティを醸成するような取り組みをすべきだとしている。