一般社団法人 日本経済団体連合会
【日本経済】
〔2025年の日本経済について問われ、〕2025年は、日本がデフレからの完全脱却を果たせるかどうかの分水嶺の年である。2024年、わが国のGDPは600兆円を突破し、国内の設備投資は年間100兆円を超え、2年連続で約30年ぶりの高水準の月例賃金引上げが実現した。基調的な物価上昇率も2%程度に近づきつつある。
こうした良い流れを確実なものとするためのキーワードは、「成長と分配の好循環」と「公正・公平・持続可能性」である。世界における分断と対立の根底には、格差の存在がある。日本も例外ではなく、格差の是正に向けて、成長と分配の好循環を回さなければならない。若年世代の消費性向が低く、賃金引上げが消費に向かわない現状を打破するには、公正・公平な分配が求められる。実現に向けては、社会保障制度の見直しが不可欠である。社会保障の財源を議論するということは、日本の財政問題そのものを議論することである。財政の持続可能性も念頭に置きながら、税と社会保障の一体改革を今から検討する必要がある。
【2025年春季労使交渉】
2023年は高水準の賃金引上げモメンタム「起点」の年、2024年はそれが大きく「加速」した年となった。2025年はこの流れを「定着」させる年にしたい。
重要なことは、働き手の約7割を雇用する中小企業と、約4割を占める有期雇用等労働者の賃金引上げ・処遇改善である。中小企業の賃金引上げには、適正な価格転嫁を進めることが不可欠である。大企業と中小企業に限らず、中小企業と中小企業、あるいは中小企業と消費者との取引も含めて、労務費を含む適正な価格転嫁が重要という認識や、「良い製品・良いサービスには相応の値が付く」ことをソーシャルノルム(社会的規範)として浸透させていく必要がある。有期雇用等労働者については、同一労働同一賃金の考え方に基づく対応の徹底が基本となる。
今年の春季労使交渉に向けては、昨今の物価上昇に鑑み、ベースアップを念頭に置いた賃金引上げの実施を広く呼びかけていく方針である。近く「2025年版経営労働政策特別委員会報告」を取りまとめ、日本全国約60カ所での講演等を通じて周知活動を展開していきたい。「成長と分配の好循環」の重要なパーツである賃金引上げに、今年もしっかり取り組んでいく。
【社会保障制度】
〔社会保障制度改革について問われ、〕中長期ビジョン「FUTURE DESIGN 2040」でも言及しているとおり、全世代型社会保障の構築は待ったなしの課題である。専業主婦世帯を前提に作られた現行制度において、いわゆる「年収の壁」が原因で働き控えが起きている現状は適切ではなく、働き方に中立な制度であるべきという基本的な考え方に立って議論してほしい。また、与党も野党も責任政党であろうとするのであれば、給付だけでなく負担(財源)とセットで考え、持続可能な社会保障制度としなければならない。財政規律の問題、税の問題、社会保障の問題の一体的な解決に向け、与野党で、中長期視点に立って議論を重ねてほしい。
【日本製鉄によるUSスチール買収】
〔米バイデン大統領が、日本製鉄によるUSスチールの買収計画を禁止する命令を下したことについて問われ、〕自由で開かれた貿易投資を重要視する国々をリードし、成長を遂げてきた米国で、今回の決定がなされたことは遺憾である。本買収計画は、米国にとって重要な社会インフラ・産業の基盤である鉄鋼の米国内での生産拠点や、それを支える従業員の労働力の維持・強化に貢献すると期待されるものであり、今回の決定は非常に残念である。
日本は、米国にとって最大の投資国かつ同盟国であり、米国への直接投資残高は世界1位、雇用創出も世界2位と多大な貢献をしている。経済安全保障という漠然とした概念を理由にこうした決定がなされたことに対し、日米経済関係への影響を憂慮している。米国政府には、こうした懸念を払拭すべく、適切に対応してほしい。
【企業・団体献金】
〔企業・団体献金に関する与野党の議論について問われ、〕政治資金については、透明性の確保とルールの遵守が重要である。今後も、この2点を徹底する方向で、与野党での議論を重ねてほしい。
また、特に企業・団体献金については、民主主義を適切に維持するためには相応のコストがかかることや、「参加と責任のシステム」である民主主義における企業・団体の「参加」のあり方という根本的な課題についても議論が必要であろう。
【能登半島地震】
〔令和6年能登半島地震からの復旧・復興について問われ、〕経団連も昨年4月と11月に現地の視察を行ったが、復旧・復興がなかなか進まない状況にあった。まずは生業の再建等の復旧が必要だが、その上で復興をどう進めていくかを考えなければならない。
能登に限らず、少子高齢化の進展に伴う人口減少や、自然災害の頻発化・激甚化が進む中、各地域が似たような地域振興策を講じる地方創生では、均質的な地域が量産されるだけであり、限界がある。例えば、人口500万人以上規模の道州圏域それぞれが、各地域の魅力を全面的に打ち出して切磋琢磨することや、地域ごとの災害の特徴に合わせた対策を講じることが必要ではないか。
4月に開幕する大阪・関西万博も地方創生の起点にしてほしい。各地域の様々な文化に関するイベントを通じて、参加者が魅力に触れ、各地域を訪問する動きや被災地を応援する動きが出てくることを願っている。