一般社団法人 日本経済団体連合会
【副業・兼業を巡る一部報道に関して】
本日、「経団連、副業容認へ転換」との一部報道があった。重要な問題であり、本件に関する経団連の立場を改めて申し上げたい。今年1月10日の記者会見で、副業・兼業については、社員の能力開発、人材開発といったポジティブな側面もあるが、兼業による仕事のパフォーマンスの低下、情報漏洩のリスク、総労働時間の管理方法、社会保険料や雇用保険料の負担のあり方など課題も多く、経団連としては、副業・兼業について旗を振って推進する立場ではないと申し上げた。
日本企業の85%が副業・兼業を就業規則で認めておらず、残りの15%が何らかの形で副業・兼業を認めているとの調査もある。副業・兼業については、個々の企業の業態に応じた判断であり、繰り返すが経団連として会員企業に対し、旗を振って副業・兼業を推奨するものではない。厚生労働省の検討会で経団連がヒアリングを受けた際にも、同じ姿勢で対応しており、経団連のスタンスは首尾一貫している。副業・兼業について経団連は推進する立場をとっておらず、一部報道にあるように、方針を転換したということもない。現在、取りまとめ中の「2018年版経労委報告」でも、そのスタンスを踏襲する方向で検討している。
今年3月に決定した働き方改革実行計画において、新技術の開発、オープンイノベーション、起業の推進、あるいは、第二の人生の手段として有効という観点から、副業・兼業を原則認める方向で普及促進を図っていくことが盛り込まれた。しかし、だからと言って、会員企業に対して経団連が、是非、副業・兼業を検討してほしいと要請することにはならない。副業・兼業にはプラスの面もあるが、依然として課題も多く、経団連としては旗振り役をすることはなく、個社が判断することになる。
【米国の法人税改革】
今般の米国の税制改革により、連邦法人税が35%から21%に引き下げられることになる。州によって差があるようだが、法人実効税率は27.98%に下がり、日本の29.74%に比べて米国の方が有利になる。様々な課税ベースの拡大などが盛り込まれた最終案を精査する必要はあるが、米国に進出する企業にとっては、法人税率の引き下げはプラス材料であり、直接的な恩恵になると理解している。
経団連は一貫して、OECD諸国平均の25%程度まで法人実効税率を引き下げるよう主張しており、今回の米国の法人税改革を踏まえ、引き続き政府への要請、働きかけを行っていく。財源についてはこれからの議論ではあるが、国全体の予算のあり方や財政健全化との整合性の中で考えることは当然、必要である。
【伊方原発3号機の運転差し止め】
広島高裁が伊方原発3号機の運転差し止めを認めたことについて、個別の司法判断についてはコメントする立場になく、口を挟むべきではないと心得ている。
ただ、敢えて感想を申し上げれば、伊方原発3号機は、原子力規制委員会の世界最高水準の安全基準のもと審査に合格し、再稼働に向け地元の理解・同意も得ていただけに、今回の判断を残念に思う。基本的な考え方としては、原子力規制委員会の審査に合格し、地元の理解と承認を得た原発については可及的速やかに再稼働してほしい。
本年12月7日に伊方原発を視察した際も、火山、竜巻、地震などの自然災害のリスクに備えた安全対策を直接確認することができた。また、噴火対策を含めた火山への備えを盛り込んで原子力規制委員会の安全審査に合格したとも伺った。四国電力は、決定の取り消しを求める異議申し立ての手続きを行うようであり、今後の動向を注視していく。
【リニア中央新幹線の建設工事を巡る問題】
リニア新幹線は国の財政投融資も投入される重要インフラであり、この建設にあたっては、発注側、受注側ともに法令を守り、国民の疑念を招かないようにすることが必要である。一刻も早い事実の解明に向けて、捜査を進めてもらいたい。今後の動向を注視したい。
【一帯一路構想】
今年5月、北京で開催された「『一帯一路』国際協力サミットフォーラム」に際し、安倍総理から習近平国家主席に宛てられた親書が手交された。その内容は、開放性、透明性、経済性等の原則に合致すれば、日本としても一帯一路に積極的に協力するというものであると理解している。これがわが国としての一帯一路への基本的な対応指針であり、日本企業もインフラ分野を中心にこの構想に積極的に参画していくことになろう。12月4、5日に東京で開催した「日中CEO等サミット」の中でも、一帯一路について日中がこの原則のもとに協力していくことを確認し、具体的な事例も動きはじめている。今後もこうした方向性の下に対応していくことになる。
日中経済関係を進める中で、とりわけ環境面での協力を中国側も重視している。PM2.5による深刻な状況にある大気汚染の問題をはじめ、中国には日本の経験から学びたい、日本の技術を導入したいという強い希望がある。今年6月に6年ぶりに北京で開催した「日中グリーンエキスポ」にも3万5千人の入場者を得た。環境技術に対する中国側の関心は一層高まっている。日本企業は引き続き、中国の環境問題の解決に貢献していく。環境技術を通じた経済協力は日中経済交流の大きな推進力になると思う。
【2017年の振り返り】
今年年初に2017年を表す漢字一字として、変革の「変」を挙げた。世界の政治経済情勢が大きく変動し、保護主義やナショナリズム、反グローバリズムが台頭する中、こうした流れを「変」えていきたいというのがその理由であった。また、日本においても、Society 5.0により超スマート社会への「変」革を進めている。これらのことから、期待・決意も込めて「変」とした。それも踏まえ、2017年を振り返ると、社会の変革を目指すSociety 5.0も本格稼働し、反グローバリズムや保護主義を変えていく動きが次第に見えてきた。「変」という漢字がぴったりな一年であった。