一般社団法人 日本経済団体連合会
【2018年の日本経済・世界経済の動向】
2018年の日本経済の見通しについて、景気の回復基調は継続し、プラス成長が続くと見ており、政府の経済見通しである+1.8%成長は達成可能だと思う。重要な経済指標は総じてプラスに転じており、とりわけ長年マイナスが続いていた需給ギャップがプラスに転じ、需要が供給を上回る状況となっている。企業の生産能力、設備投資を引き上げて、サプライサイドを強化することが今年の日本経済の課題となる。昨年来、設備投資も活発化しており、経済はプラス方向に進んでいくと思う。
世界経済の見通しについては、全体として拡大基調が続いていくと見ている。IMFは+3.7%成長という見通しを示しているが、これは妥当である。米国、欧州、中国、新興国で経済は堅調に推移しており、特に米国では昨年末の税制改革が経済の拡大を後押ししていくだろう。米国が引き続き世界経済の牽引役を果たしていくと思う。中国についても、昨年、合同訪中団などを通じて、李克強国務院総理らと意見交換したが、中国経済は順調に推移しているという手ごたえを感じた。昨秋の第19回共産党大会の後の政治的安定もあり、6%台後半の中高速成長が続くと見ている。
このように経済面では大きなリスクは見当たらない。ただ、北朝鮮や中東の情勢やテロ、サイバー攻撃など政治的なリスクは存在している。こうしたリスクが顕在化しなければ、日本経済、世界経済は拡大基調が続くと思う。
以上の展望を踏まえて、また、私の期待・決意をこめて、今年の経済動向を表す漢字として、「動く」の「動」を挙げたい。世界情勢が大きく変化する中で、日本が経済面、政治面でも原動力となっていくことを期待したい。官民挙げてSociety 5.0を推進し、経済再生を前に進めていくために、経済界も行動していくという意味をこめて、「動」を今年を象徴する一字としたい。
【地方創生】
アベノミクスの成果は着実に上がっているが、その成果が必ずしも地方や中小企業にまで行き渡っていないとの指摘は極めて重要である。中小企業は企業数、従業員数の面でわが国経済の太宗を占め、日本経済再生のためには中小企業の活性化が不可欠である。経団連としても様々な政策提言を行っており、その際、必ず中小企業や地方の課題を念頭においている。経団連としては引き続き日商、同友会とも連携しながら、政策提言を行っていく。
また、経団連は地域経済活性化に向けて地方創生アクションプログラムを推進している。具体的には、企業の地方拠点の強化、大企業の人材の地方への還流、地方採用の拡大、地方での起業支援、異業種間連携の促進、農業・観光業の活性化などに取り組んでいる。加えて、経団連では毎年、北海道から九州まで地方経済懇談会を開催しており、地方経済の発展や中小企業の支援などを巡り、各地域と意見交換を行うとともに、様々な形での支援を行っている。具体的には、北海道、北陸、四国の経済連合会とは連携協定を結び、各地域の中小企業と経団連会員企業とのマッチングを促進しており、この成果も出始めている。こうした地道な活動を着実に進めていくことが重要である。
政府は、地方版総合戦略などを通じて、地方にも目を向けた政策を進めており、意欲ある地域への支援や特区をはじめとする規制改革をさらに推進してほしい。中小企業支援に向けては、ICT・クラウド導入支援などが課題である。政府にとっても経済団体にとっても、地方の活性化、中小企業の振興は重要な課題であり、経団連としても引き続き精力的に取り組んでいく。
【賃金引上げ】
日本企業全体として、大企業、中小企業も含めて収益は高い水準にあり、史上最高益を更新している会社も多い。3月期決算で好業績が期待される中、賃金引上げへの社会的関心は高まっている。こうした社会的な期待を意識しながら、経団連としては従来より踏み込んだ処遇改善を図っていくよう会員企業に呼びかけていく。ここ数年続いている賃金引上げのモメンタムを維持し、デフレ脱却・経済再生と経済の好循環に貢献していく。具体的には、収益が拡大した企業、中長期的に収益が高水準で推移している企業、収益体質が改善された企業には、従業員の処遇改善に積極的に取り組むよう呼びかけていく。1月16日に春季労使交渉における経営側のスタンスとして、経労委報告を公表する。賃金決定は個社ごとに行うのが大原則であるが、3%の賃金引き上げという社会的期待を意識しながら、自社の収益に見合った前向きな検討を期待したい。
【エネルギー政策】
従来から主張している通り、原子力はS+3Eの観点から重要なベースロード電源であり、原子力規制委員会の新規性基準に適合した原子力発電所については、国民の理解、地元の同意を得たうえで、可及的速やかに再稼働してほしい。今後も色々な場でこうした考えを発信していく。原発の再稼働を巡り様々な司法判断が示されている中、個別の案件についてのコメントは控えるが、国民生活、産業活動を維持する観点から、エネルギー問題は極めて重要な政策課題であり、中でも原子力は重要な電源である。また、パリ協定においてわが国は地球温暖化対策に対する国際的な責務を負っており、政府目標である2013年比26%の温室効果ガス削減を達成するためには、電源構成における原子力比率を20~22%にすることが前提となっている。現在、原発の再稼働は進んでおらず、原子力の比率は低い状況が続いているが、粘り強く国民の信頼、地域の納得を得て原発の再稼働を進めていくことが重要である。経団連としても様々な形でこれを後押ししていきたい。
【憲法問題】
憲法は国の最高法規であり、そのあり方について国民の中で議論を深めていくことは有意義である。安倍自民党総裁も年頭会見で「新しい時代への希望を生み出すような憲法のあるべき姿を国民にしっかり提示し、憲法改正に向けた国民的な議論を一層深めていく」と発言している。国民の一人としてこうした方向性については理解している。ただ、経済界の立場からすると、目下、わが国には、経済再生、北朝鮮問題をはじめとする安全保障、国内における構造改革、社会保障制度改革、財政再建、人口減少問題など重要政策課題が山積しており、こうした課題に最優先で取り組んでほしい。憲法問題について議論することは大事であるが、目前の重要政策課題より優先して行うことではない。
憲法の制定から70年以上が経過し、今の時代におけるあるべき姿を議論することは必要であるが、英国でBREXITを巡って国論が二分されたように、国民が分断されることは避けるべきである。いずれにせよ、まずは経済最優先で、目前の課題に取り組んでほしい。