一般社団法人 日本経済団体連合会
【春季労使交渉】
来年1月の経営労働政策特別委員会報告の公表に向けて、先日の働き方改革実現会議での安倍総理からの要請、即ち、(1)少なくとも前年水準並みの賃金引上げと4年連続のベアの実施、(2)期待物価上昇率を勘案した議論なども踏まえながら、会長・副会長の間で自由に議論を行ない、来年の春季労使交渉での経営側のスタンスについて方向性を共有した。
経済の好循環を回していくためには、来年も賃金引き上げのモメンタムを継続していく必要がある。ベアは一つの選択肢であり、2016年と同様、年収ベースでの賃金引上げに向けて、各種手当てや働き方改革への対応など総合的に処遇を改善していくことが重要である。
賃金改定は個別企業の労使の真摯な話し合いを通じて決まるものであり、具体的な水準は、各社ごとの状況による。あくまで業績や生産性などを踏まえた判断によって決定される。
【社会保障制度改革】
薬価制度の見直しは社会保障制度改革の重要テーマのひとつとなっている。経済財政諮問会議には、特定業界の利益代表ではなく、中立的な立場から参加し、さまざまな社会保障制度改革に取り組んでいる。その中には国民の痛みを伴うような思い切った改革案も含まれており、その一環として薬価制度の見直しも提案している。抜本的な制度改革に取り組まなければ、社会保障制度そのものの持続可能性が担保されなくなる。薬価制度の見直しは製薬業界への影響が大きいことは承知しているが、併せて、製薬業界のイノベーション促進に向けた研究開発制度改革も議論している。製薬業界の国際的な競争力を維持しつつ、社会保障制度改革も進めていくことが重要である。
【採用選考活動】
今年より3月に広報活動開始、6月に選考活動開始というスケジュールに変更した。企業側、大学側、学生側のいずれからも前年より良くなったと概ね評価いただいた。他方、もう少し長い広報期間が欲しかった、毎年日程が変わるのは良くないといった意見も示された。こうした点を踏まえながら、来年1月には再来年以降の採用選考活動スケジュールについて最終的な方向性を出したい。
【同一労働同一賃金】
同一労働同一賃金の実現を目指すという基本的な方向性については、政府と経済界で一致している。ただ、日本には労使間で長らく築いてきた雇用慣行があり、それが企業の国際競争力の源泉となっている。同一労働同一賃金の検討を進めるにあたっては、日本の雇用慣行にも十分配慮するよう繰り返し述べてきた。政府からどのようなガイドラインが示されるのか現時点では不明だが、企業の負担につながれば、国際競争力を毀損することになるため、慎重な検討が求められる。日本の場合、ある一時点で同じ労働であったとしても、賃金は将来的な役割や仕事への貢献に対する期待などを反映している。一律に同じ仕事だから同じ賃金ということではなく、均衡待遇の実現が重要である。
【東京オリンピック・パラリンピック会場問題】
東京都、政府、東京2020組織委員会、国際オリンピック協会(IOC)が専門的な立場でアスリートファーストと経済性の二つの観点から競技会場の見直しを検討している。水泳、カヌー・ボートは会場変更をせず、当初案に近い形での結論となったが、費用の削減を図ることができた。バレーボールについては、有明と横浜の二案の検討が続いている。両案を比較しながら、二つの観点を踏まえて、結論を得ることが重要である。
【大阪万博】
万博の大阪誘致に向けた有識者会議が発足し、経団連からは古賀副会長が座長として参加する。成長戦略を推進する観点からは、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年の関西ワールドマスターズゲームズに続いて、2025年に大阪万博が開催されれば、経済成長を牽引していくことにつながる。大阪万博が実現するようであれば、関西だけではなくオールジャパンで取り組まなければならない。まずは誘致の実現に向けて、ナショナルプロジェクトとしてどのような体制、規模で取り組んでいくのか、そのための検討が始まるものと認識している。
【IR推進法案】
カジノを含む統合型リゾート(IR)の整備について、日本再興戦略の中で観光振興とMICEの誘致が大きな方向性として示されており、これは日本経済にとって意義あることと理解している。他方、カジノについて、現時点では国民の間に、ギャンブル依存症、マネーロンダリングなどの犯罪に対する懸念や慎重論が存在している。拙速な審議は避け、国民の理解を幅広く得られるよう、しっかり審議をしてもらいたい。
【イタリアの国民投票結果】
イタリアでレンツィ首相が主導してきた憲法改正への賛否を問う国民投票が実施され、反対が賛成を大きく上回った。これを受けて、レンツィ首相は辞任を表明した。イタリアを巡る問題が新たな国際社会の不安定要因となりかねず、政治の空白期間が生じることもあり得るので、引き続き注視していかなければならない。経済面では、イタリアの銀行が抱える不良債権問題への影響が懸念される。レンツィ首相が対応に当たっていただけに、この問題がどのような形で帰結するのか、今後の動きを注意深く見守りたい。また、「5つ星運動」といった新興政党の動向にも注目していく必要がある。
イタリアへ進出している日本企業は約140社で、総投資額は4200億円に上り、2万7000人の雇用を創出している。イタリアはEUの中でも日本企業のプレゼンスが大きい国である。日本経済へ今すぐ直接的に大きく影響することはないだろうが、今回の国民投票結果が日本企業のイタリアにおける事業活動にどのような影響をもたらすのか注意深く見守っていく必要がある。
【日米経済関係】
米国の新政権の発足に向けて、政権移行準備チームが動き出している。通商政策について、トランプ次期大統領はTPPからの撤退を表明し、NAFTAの見直しに向けた発言をしている。これらはいずれも日本経済へ影響する問題である。特にNAFTAはすでに発効し、日本企業はこれを活用したサプライチェーンを確立しており、見直しは大きな影響をもたらす可能性がある。こうした実態について、日本の経済界としてもきちんと発信し、理解を求めていくことが大切である。
経団連は、ここ2年米国へ経済ミッションを派遣しているが、来年も引き続き実施したい。米国で8000社の日本企業が事業を展開し、170万人の雇用を生み出している。このように日本の経済界が米国経済に大きな貢献を果たしていることを、米国新政権によく理解してもらえるよう努めていく。