一般社団法人 日本経済団体連合会
【3年目の抱負と課題】
本日から経団連会長としての3年目がスタートする。経団連の主な役割は次の3つである。第一に民主導の成長実現に向けて、経済界全体の進むべき方向性を示し、企業の行動を先導していくこと、第二に日本の経済・社会全般にわたる改革の牽引役を担うこと、第三に経済界の立場から政府に対して、国益や将来を見据えた政策提言とその実現に向けた働きかけを行うことである。こうした役割をしっかりと認識したうえで積極的に活動していく。
3年目の最優先課題はデフレ脱却と経済再生を確実に実現すること、そして、GDP600兆円経済への確固たる道筋をつけることである。このため、まずは消費喚起や投資促進などの需要拡大が必要である。特に重要となるのがGDPの約6割を占める個人消費の喚起である。2014年4月の消費税率引上げ後、個人消費は足踏みの状況が続いている。これを上昇トレンドに切り替え、消費回復を定着させていくためには、政府による消費のてこ入れ策・需要創造策が必要である。政府には、財政出動を伴う大胆な消費喚起策の早期実行を求めていく。
さらに「日本再興戦略2016」に盛り込まれた「官民戦略プロジェクト10」についても、その取り組みに全面的に協力をしていく。このプロジェクトは経団連の提案を政府が受け止めたものであり、成長戦略強化の推進力と位置付け、官民の英知やリソースを結集して進めていかなければならない。特に、第4次産業革命の実現、Society 5.0 の推進が重要となる。
併せて、TPP協定の早期発効や日EU EPA、日中韓FTAの早期実現をはじめとする経済連携の推進や、諸外国との経済交流の強化・拡大ならびに女性の活躍推進にも積極的に取り組んでいく。
経団連自身の改革も継続する。今後も会員企業はもちろんのこと、国民の各層の声に真摯に耳を傾け、社会からの信頼を一層高め、国民からの期待にしっかりと応えられるよう、全力で取り組んでいく。
【消費増税の再延期】
昨日、安倍総理は消費増税の再延期という極めて重い政治決断をされたが、これはG7伊勢志摩サミットの首脳宣言の合意を議長国である日本が率先して実行したものであると受け止めている。また、伸び悩む個人消費を喚起し、日本経済を再びデフレに戻さない、経済再生を最優先するという、安倍総理の揺るぎのない強い決意を示されたものであると理解している。経団連としてはこの決定を尊重している。
政府には、600兆円経済の実現と2020年度の財政健全化目標の達成の双方を目指してもらいたい。そのためにも、景気浮揚に向けた経済対策の早期策定・実行や「経済財政運営と改革の基本方針2016」、「日本再興戦略2016」、「ニッポン一億総活躍プラン」の遅滞ない着実な実行を求めていく。
【財政再建】
消費増税が見送られたことで、財政再建が遠のくのではないかと懸念する向きもあるが、安倍総理は2020年PB黒字化の旗は降ろさないと明言しており、この実現に向けて、官民挙げて取り組んでいかなければならない。財政再建には経済成長戦略、歳出改革、歳入改革の3本柱で取り組む必要がある。消費増税見送りにより歳入面では厳しくなるが、経済成長には好材料であり、総合的には財政再建の目標は達成できる状況にあると見ている。消費増税の見送りにより30カ月の時間的余裕を得たので、この間に消費を取り戻さなくてはならない。3度目の見送りを起こさず、2019年10月に必ず消費増税が実現できるよう、そのための経済環境を作り出していく。経済界としてもGDP600兆円経済に向けた道筋を作っていく。
また、歳出改革も財政再建の大きな柱である。これまで社会保障制度改革、とりわけ給付の効率化・適正化には長年手をつけられずにいたが、聖域を設けずに、思い切った措置を講じていく。私が主査を務める経済財政諮問会議の専門調査会の社会保障WGでは、44項目の具体的な改革項目を洗い出し、アクションプログラムと工程表を取りまとめた。社会保障給付全体の効率化・適正化を図っていくと同時に、高齢者世帯から子育て世帯へと支援の重点を移していくことも必要である。
【経済情勢】
G7伊勢志摩サミットにおいて、新興国の経済成長にかげりが見られ、先進国経済も回復の力強さを欠いており、世界経済は下振れリスクに直面しているとの見解が示された。G7に先立って開催したB7東京サミットにおいても、世界経済の状況について、新興国経済の減速や原油価格の大幅下落等の問題に対する懸念と合わせて、経済の先行きは決して楽観は許されないとの認識を示した。G7とB7は同様の経済認識を持っている。
ただ、現時点では経済は悲観するような状況ではなく、リーマンショックの時とは異なる。G7も引き続き緩やかで、地域間でのばらつきはあるものの、世界経済は継続して回復していくという認識を示した。そして、世界経済の下振れリスクの存在を認識しつつ、新たな危機に陥ることを回避するため、金融政策、財政政策、構造改革のすべての政策を総動員としていくとされた。IMFの経済予測においても、2016年は+3.2%、2017年は+3.5%の成長が見込まれており、経済のファンダメンタルズはリーマンショックの時とはまったく異なる。
日本経済については、企業業績、雇用ともに堅調であり、経済のファンダメンタルズは強い。リーマンショックの時とは異なっている。消費喚起に向けた経済対策がきちんと実行されれば、日本経済は名目3%・実質2%の経済成長を達成できる。日本経済の先行きについて悲観的な見方はしていない。