一般社団法人 日本経済団体連合会
【アベノミクス新三本の矢】
GDP600兆円、人口1億人維持、出生率1.8といった数値目標が掲げられているが、これらは経団連ビジョンでも打ち出しており、軌を一にするものである。強い経済、子育て支援、社会保障からなる新しい3本の矢は、安倍総理の経済を最優先とするという強い意思を如実に示すものであり、並々ならぬ意気込みが伝わってくる。大きな方向性や数値目標は妥当なものであり、今後は実現に向けた具体的な政策を立てていくことが重要である。
GDP600兆円の目標については、実現に向けて必要な名目3%、実質2%の経済成長に足もとでは届いていないが、経団連ビジョンでもGDP595兆円を掲げており、不可能ではない。意欲的な目標であると思う。経済界としても実現に向けて頑張っていく。
子育て支援の財源に関しては、子育て支援は国の大事な政策であり、税財源で賄うのが基本である。企業の社会保険料負担は限界に達しており、賃金を引き上げても半分以上が社会保険料に持っていかれてしまっているのが現状だ。2年続けて賃上げを実施しても、消費の喚起に大きくつながっておらず、それだけ社会保険料負担が大きいのだと思う。さらに負担が増えると経済にマイナスの影響が生じる。
【経済情勢・経済対策】
設備投資については、今年の数字でも増えているが、経済の好循環をさらに力強く回すためには、さらなる拡充が求められる。企業の内部留保が増え、企業業績が高まっている中、生産性向上に資する設備投資を積極的に行っていくべきだと考えている。
今後、経済財政諮問会議、官民対話、政労使会議などの場を通じて、アベノミクスの第2ステージに向けた戦略を立てていくことが重要である。特に期待したいのは成長を促す制度改革である。具体的には、法人税減税、農業分野の規制改革、外国人材の活用、消費喚起策を総合的に進めて欲しい。
安倍総理からは、さらなる経済の好循環に向けて継続的な賃上げ、非正規雇用の正規雇用への転換、民間投資の拡大を要請されている。これらは必要なものだと認識しているが、実現するためには、政府による環境整備も必要である。
【消費増税に伴う負担軽減策】
経団連は軽減税率の導入には反対であり、単一税率を維持すべきだと考えている。その最大の理由は、中小零細企業の事務負担が大きく増えることである。低所得者対策としては、何らかの給付措置が望ましい。財務省による日本型軽減税率については、経団連の提言に沿った1つのアプローチだと認識している。
【TPP】
7月末のハワイでの閣僚会合で大筋合意に至ることを強く期待していたが、実現しなかった。今月末からアトランタで開催される閣僚会合が最後の機会だと思う。大きな課題は乳製品、自動車、知的財産の3つに絞られてきている。大局的見地に立って、最終合意を目指して欲しい。
これを逃すと、カナダの総選挙、米国の大統領選挙と政治日程が続き、年単位で妥結が遅れるとの見方もある。何としても今回、大筋合意に持ち込んでもらいたい。
経団連としても、飯島副会長、中村通商政策委員長をアトランタに派遣し、交渉妥結を強力に後押しする。
【採用選考活動】
今年度より新しい指針に基づく採用選考活動が始まり、広報活動は3月から、選考活動は8月から開始となった。ただ、学生の拘束期間が長くなった、中小企業が上手く採用を進められないなど色々な声が聞こえてきている。実情を的確に把握するため、先週より会員企業を対象とするアンケート調査を行っている。10月中旬に回答を集計、分析した上で、今後の対応を考えたい。文部科学省も同様の調査を実施しているようであり、政府、大学関係者等とも連携を密にしつつ、まずは新指針の下での実態把握に努めたい。
その上で、問題点があるようなら、何らかの改善を行いたい。なお、来年度についてはすでに準備も進められていることから、実務上の制約もありどこまでできるか分からないが、本当に必要であれば、改善することも1つの選択肢である。
【政治寄付】
昨年9月、会員企業に対して、社会貢献の一環として、個社の判断で政治寄付を検討してもらいたいと要請した。その際、その判断材料として経団連としての政策評価を提示した。この大きな方向性を7月の夏季フォーラムでも再確認しており、今年も継承する。10月の会長・副会長会議で、政策評価や会員企業への政治寄付の呼びかけ方について議論する。
【安全保障関連法制】
国民の生命と財産、平和な暮らしを守るために、しっかりとした対応、備えをすることは国として最も重要な責務である。今回、安全保障関連法制が成立したことを経済界として歓迎したい。今後、わが国が積極的平和主義のもとで国際社会の平和と繁栄にこれまで以上に貢献していくことを期待したい。
今回の法案成立にあたって、国民の理解が十分進んでいるとは言えない。安倍総理が指摘されているように、誠実に粘り強く国民に説明を重ねて欲しい。
【防衛装備品の海外移転】
経団連では、9月15日に「防衛産業政策の実行に向けた提言」を発表し、その中で、防衛装備品の海外移転は国の管理と関与の下、国家戦略として推進すべきだと主張している。
防衛装備品の国際共同開発・生産ならびに供与は国家間の安全保障関係の強化に資するものである。どの国に対し、どのような技術や装備品を供与すべきか、相手国に応じた日本としての戦略が重要である。基本的には、わが国の安全保障や国際平和に資する場合にのみ、装備品の供与を国が認めることだと思う。
防衛装備移転三原則にもあるように、わが国から装備品を供与された国の目的外使用や第三国への移転については、厳正に管理することが前提になる。この前提の下、各国政府間の防衛装備品協定等の枠組みの中で、地域安全保障のあり方を含め、相手国の状況に応じた官民による装備品や技術の移転の手続きを含む仕組みが必要である。
なお、今回の提言は、安全保障関連法制の成立とは直接関係するものではなく、それによる経済的な影響は意識していない。あくまで、日本や世界の平和に貢献するために防衛装備品の移転を行うものである。