経団連は2月27日、東京・大手町の経団連会館で、製造業の海外事業展開の動向に関する懇談会を開催した。国際協力銀行(JBIC)の川上直執行役員調査部長、伊藤正大調査部次長兼第1ユニット長から、JBICが取りまとめた2024年度の「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」について、説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
本調査は、日本企業が海外で事業展開するうえでの課題や今後の展望を把握することなどを目的として1989年から実施しており、今回で36回目となる。これまで製造業企業を調査対象としていたが、2024年度は非製造業企業の調査を初めて実施した。
23年度の海外生産比率および海外売上高比率は共に上昇基調を維持し、特に海外売上高比率は、歴史的な円安を背景に過去最高の水準となった。一方で、世界的な需要の鈍化や中国経済の減速、米中対立の激化をはじめとする不透明な国際情勢のもと、日本の製造業企業による海外展開の強化・拡大姿勢は低下傾向にある。
今後3年程度の中期的な有望国・地域に関する調査では、インドが3年連続で首位となった。一方、23年度3位の中国は、経済の減速等を背景に6位に順位を落とした。米国は、労働コストの上昇などの懸念はあるものの、マーケットに対する高評価等により3位となった。
有望事業展開先の国として首位のインドは、マーケットの規模や成長性、安価な労働力等に期待が寄せられる一方、法制度の不透明な運用や他社との競争激化、インフラ整備などの課題が存在する。実際に現地での投資計画がある企業の数は、23年度に比べて減少傾向にあり、投資へのハードルが依然高いと考えられているようである。
サプライチェーンに関する調査では、研究開発拠点や製造・販売拠点、原材料・部品等の調達先の多元化が進んでおり、サプライチェーンを組み換え、強化する動きが拡大していることが明らかになった。その背景としては、パンデミックに端を発し、米中対立の激化等により、サプライチェーンの分断が進んでいることが考えられる。特に、自動車部門や電機・電子部門では、脱中国の動きが目立つ一方、中国の国内市場を狙って、中国に製造・販売拠点や原材料等調達先を移管する企業もあり、双方向に組み換えの動きが見られる。
ビジネスの変革や新たなビジネスの拡大に向けた取り組みに関する調査では、特に米国や中国が海外提携先として選ばれている。とりわけ海外スタートアップとの連携に関しては、米国との連携事例が最も多いことが分かった。また、企業規模を問わず、IoT技術や半導体技術、蓄電池、生成AIに高い関心が寄せられている。
サステイナブルな社会の実現に向けた取り組みに関する調査では、大多数の企業が脱炭素化や循環経済への移行に向けて取り組んでいると回答した。一方で、増大するコストの受け入れや補助金の少なさなどが障壁となり、海外事業における取り組みは限定的であることが判明した。
【国際協力本部】