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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年3月20日 No.3676 グロッシー・IAEA事務局長との懇談会を開催

グロッシー氏

経団連は2月20日、東京・大手町の経団連会館で国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長と懇談した。グロッシー氏から、原子力を巡る国際動向やIAEAの取り組みについて説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ エネルギー分野における原子力の活用

再生可能エネルギーに加え、天候に左右されない安定的な電源として、原子力の活用は不可欠である。今回の私の来日は、偶然にも、日本が第7次エネルギー基本計画を閣議決定し、原子力の活用方針を打ち出した週と重なった。

世界でも近年、原子力への回帰が着実に進んでいる。国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、気候変動対策の手段としての原子力の有効性が確認され、再エネと併せて、その活用を推進していく方針が合意された。

中国では28基のプラントが新たに建設中のほか、米国では、原子力の活用方針が超党派で合意された。欧州諸国では、福島第一原子力発電所の事故以降、原子力発電所のフェーズアウトも検討されたが、多くの国では、原子力の貢献なしに経済成長も脱炭素化も達成できないとして、原子力の推進にかじを切っている。グローバルサウスでも原子力への関心が高まっている。私は、こうした変化を、原子力の復興ではなく、リアリズム(現実主義)への回帰と考えている。

同時に、小型モジュール炉(SMR)の開発と相まって、近年、原子力エネルギーは歴史上初めて、「需要主導」で導入が進展している。クリーンエネルギーである原子力をデータセンター向けの電源として活用することを目的に、世界的なIT企業とSMRメーカーとの間で多くの契約が締結されている。

IAEAは、安全性やセキュリティ基準の設定・査察等を通じて、各国の原子力利用をサポートしている。

こうした取り組みの一環として、今回の来日では、福島第一原子力発電所を訪問した(2月19日)。同発電所には、2011年の事故発生以来、IAEAとして、放射性物質の管理や除染活動に関する技術的支援などの関与を続けてきた。ALPS処理水(注)の放出に当たっては、一部の国から批判も寄せられているが、技術的・科学的に健全な情報を提供し議論することがIAEAの重要な役割である。

あわせて、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所も視察した(2月18日)。福島事故の経験から懸念も寄せられるなか、東京電力により、さまざまな安全および核セキュリティ対策が講じられている。IAEAとしては、すぐにでも再稼働が可能な状況と評価している。

原子力の安全性に関し、伝統的に否定的な認識があるが、リスク評価と実績に照らして正しい発信を続けていきたい。

高度な安全性を追求しながら、原子力産業への投資を促進し、適切に収益が得られるよう合理的な規制とし、技術の進歩に合わせて規制も進化させていくことが肝要である。

■ 非エネルギー分野におけるアトムの力の活用

IAEAは近年、エネルギー利用だけでなく、アトムの力の応用分野の取り組みにも力を入れている。

このうち「Rays of Hope」では、医療分野におけるアトムの力の活用として、放射線治療・診断の普及に取り組んでいる。近年、途上国では、がんの罹患率が上昇傾向にある一方、日本に普通にあるような放射線治療装置が一台もない国がある。こうした国々を設備投資面で幅広いドナーと共に支援していきたい。

食糧安全分野での国際連合食糧農業機関(FAO)との共同イニシアティブである「Atoms for Food」では、放射線を活用し、干ばつに強い品種や収穫量が大幅に改善する品種の開発等に取り組んでいる。

また海洋プラスチック問題に対しては、「NUclear TEChnology for Controlling Plastic Pollution」(NUTEC Plastics)において、放射線技術を用いたリサイクルや、海洋プラスチックの監視・管理等に取り組んでいる。

こうした取り組みは企業の利益にもつながり得るものであり、ぜひ多くの日本企業とパートナーシップを結びたい。

(注)多核種除去設備(ALPS)を用いて、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水

【環境エネルギー本部】

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