
佐橋研究委員
21世紀政策研究所は2月21日、東京・大手町の経団連会館でセミナーを開催した。同研究所で客員研究委員を務める東京大学東洋文化研究所の佐橋亮教授が、「トランプ政権再始動と米中対立・国際秩序の行方」と題して講演した。
佐橋研究委員は冒頭、私たちは、第2次世界大戦後から築いてきた国際秩序が大きく変化するような歴史の転換期に直面していると強調。外交の視点から第2次ドナルド・トランプ政権をひもとき、米中関係や東アジア諸国・地域との関わり、日本への影響にも触れつつ、今後の国際経済秩序について展望した。概要は次のとおり。
■ トランプ大統領の全般的な特徴
トランプ大統領は、ワシントンのアウトサイダーであることを強く自認している。これまでの米国政治を否定し、自身に忠誠を誓うメンバーで政権を固める。加えて、自国の短期的な利益を徹底的に追求するリアリストであり、MAGA(Make America Great Again、米国を再び偉大に)運動に示されるようなナショナリストでもある。また、孤立主義でなくとも単独行動主義ではあるので、バイラテラル(二国間)の交渉を好み、第1次政権以上のスピード感と課題への確信を持って、矢継ぎ早に政策を打ち出している。
■ ピースメーカーとしてのトランプ大統領
トランプ大統領は政権において、中東やウクライナの問題にいち早く取り組み、その動向は連日報道されている。今後は、平和をつくる大統領としての側面をより一層前面に出してくるだろう。ただし、これまでのような高コストの軍事支援ではなく、より低コストで世界と関わりつつ、平和を実現していくことに重きを置く。そう考えると、米国の強大な影響力を背景に、外交を通じて平和をつくるべきという今の発想に行き着くのも理解できる。このようなトランプ的な世界観を押さえておくことは、今後の米国を見ていくうえで重要な視点となる。
■ 米中対立と国際秩序の行方
トランプ政権の対中政策は、ジョー・バイデン前政権にあった「遠慮」を感じさせるものにはならない。中国に厳しい経済的要求を突きつけてディール(取引)に持ち込むことが想定される一方、依然として中国への安全保障上の警戒は残る。この二つの方向性がお互いを牽制しながら、これからも米中対立は続いていく。懸念すべきは、今後、米国が力の論理で国際秩序の再編を試みるかもしれないことである。そうさせないためにも、日本にはルール重視の多層的な秩序構築を推進していくことが強く求められる。
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講演後の質疑応答では、自国第一主義に突き進む米国に日本はどのように対応していくべきかとの質問が相次いだ。これらに佐橋研究委員は、まずは日本がこれまで培ってきた価値観の大切さを再認識すべきとの見解を示した。そして、自由貿易やルールの重要性に触れたうえで、自由で開かれた国際秩序という言葉を、魂を込めて主体的に発信していくことが肝要であり、それが私たち日本の歩むべき道であると語った。