
パケ大使(左)、ヴァンデンベルケ総局長(右)、野田副会長(中央)
経団連は2月18日、東京・大手町の経団連会館で、ジャン・エリック・パケ駐日欧州連合(EU)代表部大使、欧州委員会気候行動総局のクルト・ヴァンデンベルケ総局長から、排出量取引制度(ETS)をはじめ欧州の気候変動対策について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 欧州の気候変動対策の現状とクリーン産業ディール
1990年代以降、欧州では、排出削減と経済成長を実現するとともに、電源の脱炭素化も進めてきた。しかし近年、エネルギーコストの高騰等を背景に鉄鋼・セメント・化学等のエネルギー集約産業が大きな打撃を被っており、脱炭素投資が十分になされていない。その結果、イノベーションが起きず競争力が削がれている。「ドラギ報告書」(注1)も、クリーン分野における競争力強化の重要性を指摘している。
こうした認識のもと、新たな戦略である「クリーン産業ディール」を公表する(注2)。同戦略では、脱炭素投資を促進すべく、ETSを軸に、規制・制度改革やサステナブルファイナンス等の政策パッケージを提示する予定である。
柱の一つがクリーン製品の需要拡大・市場創造である。従来製品に比べてコストが高いクリーン製品の需要を喚起するため、まずは、ETSの運用を通じて収集したデータを基に、「クリーン製品」の定義付けを行う。その定義のもとで、公共調達部門でクリーン製品を活用していきたい。同時に、安全保障や欧州域内の競争力強化の視点を踏まえ、欧州製品を優先的に導入する基準を設定する。
足元の状況を見ると、自動車メーカーにおいて、クリーン製品を調達する自主的な取り組みが行われているほか、EUの「建設製品指令」において、2030年以降の新規建設にグリーンセメントの活用を求めるなど、規制的措置も講じている。また、グリーン水素に関して、EUとして計20億ユーロ分のオークションを立ち上げ、製造コストと市場価格の差分(グリーンプレミアム)を支援する仕組みを導入している。
■ EU-ETS
ETSはEUの気候変動対策の柱である。排出量のキャップとして機能するだけでなく、ETSにより得られた収入は、各加盟国で気候変動分野に再投資されている。いわば、イノベーション創出・脱炭素化のエンジンとなっている。
現在、エネルギー集約産業に対しては、無償割り当てを実施しているものの、排出削減のインセンティブが十分に働いていない。そこで、無償割り当てを段階的に減らすと同時に、カーボンリーケージにも対処すべく、炭素国境調整メカニズム(CBAM)を導入したい。
今後、ETSの対象範囲の拡大も予定している。27年には建物の冷暖房や運輸部門も対象に含め、EU-ETSは欧州の排出量の少なくとも75%をカバーする予定である。
(注1)欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ前総裁が、24年9月に発表した「欧州の競争力の未来」と題する報告書
(注2)2月26日に公表済み
【環境エネルギー本部】