経団連は2月5日、労働法規委員会国際労働部会(市村彰浩部会長)をオンラインで開催した。富士通Employee Success本部の西明尚隆R&D人事部長から、同社のグローバルなタレントマネジメント戦略の取り組みについて説明を聴くとともに意見交換した。同社事例の概要は次のとおり。
■ 将来の経営リーダーの育成
富士通は、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことをパーパス(存在意義)に掲げ、社会課題の解決に向けた業種横断的なデジタルサービスを提供している。事業をハードウエアからソフトウエアサービスにシフトするなか、サービスを提供する人材育成の重要性がますます高まっている。
特に、複雑で曖昧な経営環境下でもビジョンを描き、未経験の領域でも俊敏に学びながら常に変革にチャレンジし、企業価値を高め続ける、将来の経営リーダーが求められる。このため、グローバルで約300人のタレントをプールし、さらに選抜した約30人をトッププール人材として育成し、適切な時期に幅広い経験を積める戦略的な人材育成に注力している。
ロミンガーの7・2・1の法則(注)でいわれるように、一番の人材育成策は業務経験を通じた成長であることから、トッププール人材は難易度が高く飛躍的な成長が見込まれるポジションへ戦略的にアサインしている。
また、トッププール人材は常務(EVP)からのメンタリング、リーダーシップに関する社外のアセスメント(評価)やコーチングを活用し、経験した内容を内省している。加えて、経営哲学やリーダーシップを醸成する実践的なプログラムや、タレント同士の交流、社内外の経営リーダーとの対話の機会も設定している。こうした業務経験、内省、経営哲学・リーダーシップの醸成、人脈形成のサイクルを回すことで、タレントの成長を支援している。
■ 近年の見直し内容
海外のベストプラクティスを取り入れつつ、日本企業として社員の共感を得て人事施策を運用できるようにするにはどうすればよいか、日々試行錯誤している。例えば、2024年まではタレントプールを10倍の約3000人選抜していたが、一人ひとりの顔がしっかりと見えず、必ずしも個人への成長支援が行き届かなかったため、人数を厳選した。その代わり、経営トップに将来のリーダーの育成責任があることを明確にし、妥協なく対応を求めている。
また、本来事業体の責任者である本部長(SVP)が、自ら決断すべき案件も、EVPに相談する傾向が見られるなど、中間管理職化している懸念があった。そこで24年から、従来のEVP強化を主目的としてきたタレントマネジメントをSVP強化に転換した。加えて、グローバルでの人材育成も重要であることから、海外のトッププール人材を訪日させる研修プログラムを数年前から実施している。プログラムでは、日本本社の役員との面会や事業コンセプトに関する協議、他のビジネスリーダーとの対話等を通じて、日本本社とグループ戦略への理解を深めている。
次世代の経営リーダーが、激変する環境に対応しながらビジネスをリードしていけるよう、適切な時期に幅広い経験を積み、経営哲学やリーダーシップ、人脈を形成できるような戦略的なタレントマネジメントを引き続き推進していく。
(注)人材育成で重要なのは、業務経験が7割、上司など他者からの影響が2割、研修学習が1割という経験則
【労働法制本部】