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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年2月27日 No.3673 出版業界の現状と書店の未来 -生活サービス委員会企画部会

松信氏

経団連は1月30日、東京・大手町の経団連会館で生活サービス委員会企画部会(山本ひとみ部会長)を開催した。有隣堂の松信健太郎社長執行役員から、出版業界の現状と書店の未来について、同社の取り組みを聴いた。概要は次のとおり。

■ 紙の本を巡るビジネスの現状

有隣堂は横浜市を中心に書店業を営んでいる。2024年末で創業115周年を迎えたが、最近の出版社・書店を巡る状況は非常に厳しい。社会のデジタルシフトに伴い、本(書籍・雑誌)の販売が減少している。電子書籍はスマートフォンの普及に伴い市場が拡大しているが、多くはコミック販売であり、書籍・雑誌は、紙の本同様に苦戦している。特に紙の雑誌は、ピーク時の17.1%にまで流通量が減少し、出版社・取次・書店のビジネスモデルに変化が生じている。

大手総合出版社では、主力であった書籍・雑誌販売から、知的財産(IP)や版権、海外展開による事業収入へと大きくシフトし、それらが売上の6~7割を占めるなど、ビジネスモデルが大きく変わった。

一方、書店は、雑誌への過度な依存や、「委託・再販制度」に頼るビジネスモデルから脱却ができずに苦戦している。書店数は、08年の約1万7000店から、23年には約1万店、図書カードリーダーの設置数で見ると約6500店まで減少している。

■ 新たな価値創造への挑戦

こうした厳しい状況ではあるが、日本の学生の学力低下、国際競争力の低下、社会的課題、文化的側面等を見ても、読書・書籍の有用性は変わらないと考えている。祖業である書店事業を継続すべく、当社は大きく二つの挑戦をしている。

第一に、「書店の複合化」である。本を売るだけの商売は成り立たなくなるため、書籍を売ってきた信用力で書籍以外の「モノ・コト・トキ」を売るとともに、その力を借りて、書籍を売り続けることで、新たな価値の創造を目指している。

書店が、居酒屋・アパレル・雑貨・カフェ等に進出し、「モノ・コト・トキ」を売るという挑戦には、社内外で否定的な意見も多かった。密着番組の放送後にSNSでの炎上も経験したが、現在、それらの店舗では利益が確保できており、さらに新たな挑戦につながっている。

第二に、「ファンづくり」である。会社そのもののファンになってもらうことで、「どうせ本を買うなら有隣堂で買おう」と思ってもらいたいと考えている。YouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」は、「偏愛を伝える」ことをコンセプトに運営してきた結果、登録者数が33万人となっている。

他社とのコラボ企画も含め、「内容に口を出さずに現場に任せる」ことを徹底することで、面白い番組作りにつながっており、新たな販売チャネルとしても可能性が見えてきた。

■ イノベーションを続けていく

子どもや若者が、街なかの書店で、それぞれが出会うべき本に出会う光景をなくしたくないと考えている。

大切にしていることは「Stay Unique」であり、差別化に向けたイノベーションを続けることである。そのためには、「人」の力が重要である。書店を支える社員の独自性・既存知を増やすことのできる環境を整え、引き続き新たな価値創造に向けた挑戦に取り組んでいきたい。

【産業政策本部】

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