
芳野氏

十倉会長
経団連(十倉雅和会長)と経団連事業サービスは1月31日、東京・大手町の経団連会館で「第128回経団連労使フォーラム」を開催した。同フォーラムは、企業の経営者・人事労務担当者、労働組合の関係者らが春季労使交渉・協議のポイントや労働に関する諸課題などを共有する場として、毎年1月に開催している。会場とオンライン合わせて約300人が出席した。
■ 開会
開会あいさつで十倉会長は、現在日本は「デフレからの完全脱却」「分厚い中間層の形成」「成長と分配の好循環」の実現に向けた重要な局面を迎えていると指摘。経団連は「2025年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」(注)において、賃金引き上げと総合的な処遇改善を「人への投資」の両輪として明確に位置付け、「賃金・処遇決定の大原則」にのっとり、とりわけ月例賃金においては「ベースアップを念頭に置いた検討」を呼びかけていると主張した。賃金引き上げの力強いモメンタムの「定着」に向け、(1)賃金は上がっていくもの(2)適正な価格転嫁と販売価格アップを受け入れる――という二つの考えを社会的規範(ソーシャルノルム)として浸透させる必要があると強調。あるべき「未来」を労使で「共創」すべく、建設的な春季労使交渉・協議が行われることに期待を寄せた。
■ 講演
1.経済講演
「2025年日本経済の行方」と題して、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストが講演した。
米国の経済政策と経済・金融市場への影響について、(1)中国経済の成長率低下により米中のパワーバランスに変化が生じている(2)大幅利上げでインフレは終息に向かいつつある(3)移民増加により成長率が押し上げられている――と解説。トランプ政権は一律追加関税について、特定の問題で相手国の譲歩を引き出す交渉手段として、また、米国の貿易赤字を削減する手段として利用する考えであり、日本もターゲットとなる可能性があるとの懸念を示した。
また日本経済の現状については、物価高による個人消費の弱さや潜在成長率の低迷が続いていると指摘。石破茂政権には「成長戦略」への着実な取り組みが求められており、そのうえで、25年は物価上昇を上回る実質賃金の上昇が期待されていると述べた。
あわせて日銀による金融政策の正常化と歴史的円安の行方について、基調的な物価上昇率は2%割れまで低下している、今後追加の利上げが継続的に見込まれると指摘しつつ、トランプ政権の追加関税が為替と国内経済に与える影響について三つのシナリオを紹介した。
2.産別労組リーダーによる講演
続いて、全日本自動車産業労働組合総連合会(自動車総連)の金子晃浩会長、全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(UAゼンセン)の古川大会長代行、ものづくり産業労働組合(JAM)の安河内賢弘会長、日本基幹産業労働組合連合会(基幹労連)の津村正男中央執行委員長が、25年の労使交渉に臨む産業別労働組合の考え方をそれぞれ説明した。
3.芳野連合会長講演
経団連の藤原清明専務理事による25年版経労委報告の解説の後、日本労働組合総連合会(連合)の芳野友子会長が講演した。
芳野氏は、「2025春季生活闘争」方針の概要について解説。産業・企業、経済・社会の活力の原動力となる「人への投資」を起点として、ステージを変え、経済の好循環を力強く回していくことを目指す「未来づくり春闘」は今回で4回目になると指摘。基本スタンスに掲げた3点((1)「みんなの賃上げでみんなの生活を向上させ、新たなステージを定着させよう」(2)「『働くことを軸とする安心社会』に向け、格差是正と分配構造の転換に取り組もう」(3)「『みんなの春闘』で労働組合に集う仲間を増やし、集団的労使関係を広げよう」)に基づき、持続的な賃上げ、働き方の改善、政策・制度実現に向けて取り組むと表明した。
4.企業による講演
多様な人材の活躍推進とエンゲージメント向上の取り組みをテーマに、旭化成の内炭広志執行役員人事部長と、アステラス製薬の杉田勝好副社長/人事・コンプライアンス担当が、それぞれ自社の具体的な取り組みを紹介した。
(注)25年版経労委報告は経団連事業サービスのウェブサイトで購入可能
https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/pub/cat/8773dc2db847b7bb177b613c80486c5dfe58c353.html
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