経団連のバイオエコノミー委員会(小坂達朗委員長、岩田圭一委員長)と東京大学と日本パスツール研究所によるPhic(Planetary Health Innovation Center=プラネタリーヘルス・イノベーションセンター)は1月22日、東京・大手町の経団連会館で第3回「プラネタリーヘルス産学連携イニシアティブ」会合を開催した。建築家であり東京大学生産技術研究所の特任教授を務める豊田啓介氏、同大学大学院新領域創成科学研究科教授であり理化学研究所革新知能統合研究センターでセンター長を務める杉山将氏から、研究の取り組みについてそれぞれ説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ コモングラウンドがもたらす行為空間連携の可能性(豊田氏)

住宅等の建築物の設計においては、通常デジタル技術としてCAD(Computer-Aided Design)やBIM(Building Information Modeling)が用いられているが、そのデータは他の業界に利活用できていない。このような建設データや都市データを、よりロボットフレンドリー、AI(人工知能)フレンドリーなものにできれば、情報の価値化・流動化が進展する。
その実例の一つに「AIR RACE X」がある。「空のF1」とも呼ばれるエアレースにXR(クロスリアリティ、拡張現実)技術を取り入れたもので、世界各地のパイロットの超高精度なフライトデータを集積・分析して競技データを生成し、その競技データを映像化している。パイロットたちのフライトを渋谷の街なかで観戦するという、体験型メディアへと拡張した取り組みを実施した。
その他、私の研究においては、大阪市と東大生産技術研究所の二つの拠点を結び、多人数の位置および動きを空間的にオーバーラップさせる没入型コミュニケーションの基礎的な技術開発・実証等を行っている。
このように人間社会とAIが共に依拠できる「共有基盤(Common Ground=コモングラウンド)」環境が地域拠点に整備され、現実空間とデジタル空間が相互に重なり合う。コモングラウンドのもと、遠隔地間でリアルタイムかつ双方向のやり取りが可能になれば、仕事や教育、医療等、さまざまな領域への適用が可能となり、地方の文化・経済・社会基盤の強化および価値・機会の創出、生産人口の離散化・流動化の促進に寄与するであろう。
■ 信頼できるAIの実現に向けて(杉山氏)

機械学習とは、コンピューターにヒトのような学習能力を獲得させることを目指すものであり、データの背後に潜む規則性を学習し、言語の翻訳、ウェブサイトから収集した情報の解析をはじめさまざまな領域で応用されている。大きく、(1)教師付き学習=答えを学習(2)教師なし学習=データの特徴やパターンを学習(3)強化学習=環境と相互作用しながら、試行錯誤を通じて最適な行動を学習――の三つの学習法に分類される。
2024年にAI研究がノーベル物理学賞・化学賞を受賞した。AIがもたらす恩恵に注目が集まる一方、その危険性を指摘する声もある。信頼できる機械学習に向けては良質な大量の教師データが必要だが、現実的には困難である。そこで、簡単に集められる大量の低品質データを活用できる学習理論を構築した。それにより、例えば雑音を含む音声データと雑音だけのデータを学習させることで、音声の雑音を除去することが可能になった。
これまでは汎用的な大規模基盤モデルが構築されてきたが、これからは、人に個性があるように、基盤モデルも個別化していくだろう。それは、計算・エネルギー効率改善の観点からも重要である。
AI研究に関する国際動向として、これまでは機械学習の技術そのものが議論の中心で北米の企業・大学がリードしていたが、近年は、議論の中心が社会課題への対応に移行している。さらに米国だけでなく中国が膨大な資金を投入するなど、技術開発競争が激化している。
AIに関するトップ論文著者数は、米中がトップ10を占め、理研は64位、東大は71位にとどまる。日本には人材も資金も圧倒的に不足している。世界の優秀な若手研究者は、スター研究者の周りに集結する傾向があることから、日本は、国際的なスター研究者を育成するために優秀な若手研究者へ自由な活動の場を提供することが不可欠である。また、日本が強みを持つ産業にAIを組み合わせることに競争力があると考える。
【産業技術本部】