
井藤氏
経団連は12月20日、東京・大手町の経団連会館で金融・資本市場委員会(髙島誠委員長、日比野隆司委員長、佐藤雅之委員長)を開催した。金融庁の井藤英樹長官から、今後の金融行政の方向性について説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。
■ 金融庁のミッション
金融行政の一番の目的は「国民の厚生の増大」、すなわち国民の生活水準や幸福度の向上である。このためには金融システムの安定が欠かせず、銀行の破綻などによる経済への悪影響を防ぐ必要がある。同時に、金融仲介機能を発揮し、スタートアップ振興や地方創生を支える資金を流通させることも重要である。
また、利用者保護を図る一方で、諸外国で利用できるフィンテックなど便利なサービスをわが国でも利用可能にする必要がある。さらに、市場の公正性や透明性を確保しつつ、企業の活力をそがないバランスの取れた対応が必要である。
■ コーポレートガバナンス改革
金融庁は、コーポレートガバナンス改革の一環として、企業と投資家の対話を促進する観点から、実質株主の透明性向上に取り組んでいる。企業が実質株主を効率的に把握できるようにするため、スチュワードシップ・コードの改訂を検討している。投資先企業からの株式保有状況の照会に対して、機関投資家は説明すべき旨を追記する予定である。
また、サステナビリティ情報開示についても金融審議会で議論を進めている。時価総額の大きい企業を中心に、2027年からCO2排出量などの開示義務を段階的に導入する方針である。
■ 資産運用立国の実現
政府は23年12月に「資産運用立国実現プラン」を公表し、資産所得倍増などの取り組みの全体像を示した。24年1月にはNISAの抜本的拡充・恒久化を実現した。また、販売会社等における顧客本位の業務運営を推進している。さらに、国民の金融リテラシーを向上させるため、24年夏から金融経済教育推進機構(J-FLEC)が本格的に活動している。
石破茂内閣総理大臣は「『資産運用立国』の政策を着実に引き継ぎ、さらに発展させる」と表明している。金融庁は、今までの取り組みを推進しつつ、新しい課題にも対応していく。
■ 損害保険業の制度の見直し
損害保険業界における不祥事を受けて、金融審議会の「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」において、制度改正が議論されている。同ワーキング・グループの報告書案(注)には、大規模乗合代理店に対する体制整備義務の強化、保険仲立人の活用促進、企業内代理店に関する規制の見直しなどの施策が盛り込まれている。
■ デジタル技術を用いた金融サービスの変革への対応
デジタル技術には、サイバーセキュリティ、マネーロンダリング、投資者保護などに関するリスクがある。金融庁はこれらの課題に配慮しつつ、ビジネスの効率化や合理化に資する技術の活用を推進している。特に、金融機関における健全かつ効果的なAI利活用を促進するため、ディスカッションペーパーの策定を検討している。
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説明後の意見交換では、有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備について、多くの出席者から、実務への影響を踏まえた慎重な検討を求める意見が出された。
(注)12月25日に報告書として公表された
【経済基盤本部】