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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年1月23日 No.3668 バイオセキュリティについて議論 -バイオエコノミー委員会企画部会

山本氏

経団連は12月10日、都内でバイオエコノミー委員会企画部会(大内香部会長)を開催した。シンプロジェンの山本一彦社長兼CEO、林謙太郎DNA合成ビジネスユニット長から、バイオセキュリティに関する最新状況等について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ バイオセキュリティ等の基本的概念と米国等の取り組み状況

国際的に合意された厳密な定義は存在しないが、米国では、バイオインシデント(生物学的事故)のない社会を実現するビジョンのもと、バイオディフェンス、バイオセーフティ、バイオセキュリティを次のとおり定義している。

バイオディフェンス=バイオセーフティとバイオセキュリティの上位概念。生物学的脅威に対応し、生物学的リスクを低減し、バイオインシデントへの準備、対応、回復のための行動を指す

バイオセーフティ=COVID-19のような感染性微生物や有害な生物学的物質の安全な取り扱いと封じ込めを指す。実験室内での病原体等の取り扱いを定めたバイオセーフティレベル(BSL)分類等が設定されている

バイオセキュリティ=(1)感染症等の生物学的脅威を分類し管理するための戦略的アプローチ(2)病原体や毒素などが故意または偶発的に誤用・不正利用される可能性を取り除くこと――を意味する。(1)に対しては、診断薬・ワクチン・治療薬の開発、(2)に対しては、人工遺伝子合成における配列スクリーニングや顧客スクリーニング等の対策がある

バイオセキュリティの定義(2)に関しては、ガイドラインの策定等で米国が先行している。これに続き、英国・中国等でも対応が開始されている。とりわけ米国では、連邦政府の資金援助を受けるプロジェクトにおいては合成2本鎖DNA配列情報および使用者に対するスクリーニングが義務化される見通しである。またカリフォルニア州では、州法のもと、遺伝子合成会社は国際遺伝子合成コンソーシアム(IGSC)のメンバーであることが操業の要件とされている。

配列スクリーニングにおいて、既存の検索システムは、病原性配列の検出を目的に開発されていない。このため、良性配列(偽陰性)として処理されるケースがままあることが課題となっている。また、顧客スクリーニングにおいては、エンドユーザーまで確認することが望まれるが、個社での対応は現実的に困難であることが課題として挙げられる。

■ 今後想定される国際的な動きと日本が取るべき対応

合成生物学の発展によるバイオエコノミーの発展が期待される一方、生物兵器等への転用に対する懸念や危険性から、バイオセキュリティがビジネスの障害となる恐れがある。また、カリフォルニア州の取り組みから分かるとおり、今後国際的なトレンドとして、配列スクリーニング、顧客スクリーニングを実施しない企業は、バイオモノづくり産業に参入できなくなる可能性がある。そのため、わが国においても、ガイドラインの策定や、配列スクリーニング機能の構築について検討を進めるとともに、国際的なルール作りに参画することが重要となる。

配列スクリーニングに関しては、先行する欧米の特定企業にプラットフォームを占有されるようなことがあれば、ビジネスにおいて劣後する危険性がある。配列スクリーニングのプラットフォームは、本来、誰もが簡易にアクセスできる公共財的な性格を有することが理想的である。そこで、日本政府が旗を振り、産業界をはじめ各界を巻き込み、公的資金を活用した取り組みを進め、競争力のある配列スクリーニング機能をわが国に早期に確立できれば、バイオエコノミーにおけるわが国の国際競争力の強化に資するものとなるだろう。

【産業技術本部】

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