
小野氏
特許庁は2024年3月から、政策推進懇談会において、国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護等の論点を中心に議論を行い、同年6月に「特許庁政策推進懇談会中間整理」を公表した。
現在、産業構造審議会の特許制度小委員会等に場を移して、法改正も視野にさらなる検討が行われており、その内容等を詳細に把握することが肝要である。
そこで経団連は12月13日、東京・大手町の経団連会館で知的財産・国際標準戦略委員会(津賀一宏委員長、遠藤信博委員長、時田隆仁委員長)を開催し、特許庁の小野洋太長官から、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代にふさわしい産業財産権制度の構築について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 審査状況と特許庁の直近の取り組み
特許庁では23年度、一次審査通知までの期間を平均10カ月以内とする「FA10」をはじめ、特許の審査期間に関する目標を達成し、世界最速の特許審査を実現した。商標や意匠を含め、引き続き、審査の効率化・迅速性の維持に努めたい。
知財経営も推進しており、創業期スタートアップに知財専門家とビジネス専門家を派遣する知財アクセラレーションプログラム(IPAS)やベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣事業(VC-IPAS)等を行っている。22年には、個社がグリーントランスフォーメーション(GX)関連技術の強みや弱みを把握すること等に資する「GX技術区分表」(GXTI)を公表した。また、助成業務を追加するなど工業所有権情報・研修館(INPIT)の機能強化にも取り組んでいる。
■ DX技術の進歩促進と特許権等の適切な保護に向けて
近年、ネットワーク関連発明・AI関連発明等の特許出願が急増している。デジタル技術の進歩と知的財産権の適切な保護が両立するエコシステムの実現に向け、(1)国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護(2)生成AI技術の発達を踏まえた意匠制度上の適切な対応(3)仮想空間における意匠の保護――について検討している。
■ 国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護
ネットワーク関連発明とは、例えば、インターネット等のネットワークを介して接続された複数のコンピューター(サーバー等)の組み合わせによって実施することが前提とされる発明のことをいう。
属地主義を厳格に解すると、外国にサーバーを置けば、日本でサービスを提供したとしても、日本で特許発明を「実施」(特許法第2条第3項)したとはいえず、特許権侵害は認められないという結論になりかねない。
しかしこれでは、特許権者の権利保護に劣る。そこで、近年の知財高裁の裁判例を踏まえ、ネットワーク関連発明について発明の技術的効果と経済的効果が国内で発現しているといった所定の要件を満たせば、当該行為が実質的に「国内」で「実施」されたとする方向で特許法に盛り込む旨検討している。各国の制度を調査しながら、さらに議論を進めていきたい。
■ 生成AI技術の発達を踏まえた意匠制度上の適切な対応
生成AIの技術発展に伴い、短時間で大量のデザインを生成・公開することが可能となっている。
既存デザインのモデルチェンジとして新デザインを創作し、意匠登録出願をした際、第三者が生成AIを利用して既存デザインに基づき生成・公開したデザインを理由に、新規性(意匠法第3条第1項各号)等を喪失したとして、意匠登録されない可能性がある。
このような懸念、課題等に対し、生成AI技術の発達を踏まえた意匠制度上の適切な対応について議論している。
■ 仮想空間におけるデザインに関する意匠制度のあり方
現行の意匠法は、画像の一部も保護対象としているが、機器から独立したコンテンツは保護されない。そのため、仮想空間内のデザインは保護対象とならない場合がある。現実空間のデザインを仮想空間で無断販売等された場合であっても、意匠権を行使できない可能性がある。
意匠制度見直しの必要性および制度的措置の方向性について、著作権法等との関係や創作活動への影響を十分に配慮しながら、検討を進めていきたい。
【産業技術本部】