
山本氏
経団連は12月4日、雇用政策委員会人事・労務部会(直木敬陽部会長)をオンラインで開催した。青山学院大学経営学部の山本寛教授が「企業における若年社員の定着と活躍の推進について」と題して講演したほか、若年社員の活躍推進に関する事例を聴取した。山本氏の講演概要は次のとおり。
■ 人材定着(リテンション)の重要性
転職希望者数が2023年に1000万人を超え、転職者の半数以上が正社員という状況に至り、日本の労働市場は「転職が当たり前」の時代を迎えたといえる。こうしたなか、退職率の低さと企業業績には正の相関が認められるなど、企業にとって社員に長く勤続して働いてもらう「リテンション(定着)」の重要性がより高まっている。
若年社員は、「成長実感」が高くなるほど、継続就業意欲だけでなくパフォーマンスとエンゲージメントも高まることが確認されている。加えて、将来にわたって成長できるという期待感、すなわち「成長予感」が、若年社員の総合的な会社満足度を大きく左右する。
社員の定着を促す人的資源管理施策である「リテンション・マネジメント」において、若年社員に対する有効施策としては「社内コミュニケーションの活性化」が最も重要である。コミュニケーションに関しては、(1)経営トップや上司との「タテ」(2)部署内や同僚との「ヨコ」(3)部署や拠点を超えた「ナナメ」――といった全方向による強化を図ることがポイントとなる。
■ 定着を支える働きがい向上
近年、企業の人材戦略において、「働きがい」と「エンゲージメント」の向上が重視されている。その背景には、SDGs(持続可能な開発目標)の8「働きがいも経済成長も」が掲げるディーセントワーク、すなわち「働きがいのある人間らしい仕事」の推進がある。
「働きがい」とは、働いた結果、意味が見いだせることである。チャレンジングであり、成長実感を得られることが、働きがいを感じる仕事といえる。「エンゲージメント」とは、社員一人ひとりが自社の成長と自身の成長を結び付け、目標に向かって自らの力を発揮しようとする自発的な意欲を指す。
働きがい向上には、社員のスキルを「見える化」することで成長を実感させるとともに、副業や社内公募制度を活用し、新たな挑戦の場を提供することが有効である。また、上司が部下の様子をよく観察し、適切なタイミングで励ますことと併せて教育的な指導を行うことが、エンゲージメント向上に資する。
こうした取り組みを通じて、若年社員が「成長実感」を得られるよう、働きがいとエンゲージメントを重視した環境を整備することが、若年社員の定着と活躍の要諦といえる。
【労働政策本部】