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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年1月1日 No.3665 第2回「プラネタリーヘルス産学連携イニシアティブ」会合を開催

経団連のバイオエコノミー委員会(小坂達朗委員長、岩田圭一委員長)と、東京大学と日本パスツール研究所によるPhic(Planetary Health Innovation Center=プラネタリーヘルス・イノベーションセンター)は11月21日、都内で第2回「プラネタリーヘルス産学連携イニシアティブ」会合を開催した。大内香同委員会企画部会長による開会あいさつに続き、東京大学大学院薬学系研究科・医学系研究科の浦野泰照教授ならびに同大学院農学生命科学研究科の高橋伸一郎教授から、プラネタリーヘルスに関する課題意識や取り組みについて、それぞれ説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ 「化学」精密可視化技術の実装による安全・安心社会の実現(浦野氏)

わが国では国民皆保険制度のおかげで、だれもが質の高い医療を受けることができる。しかし、長きにわたり日本の医薬品市場は輸入超過の状態にあり、社会全体としての高齢化も相まって、今の形での国民皆保険制度は持続可能性に乏しい。今後も皆が安全・安心な生活を送れるよう、海外から高額な医薬品を輸入しなくても、低コストで病気を発見・治療できる社会を「化学」の力で実現したい。

今日、日本人の死因第1位はがんである。がんの治療法には外科手術、放射線治療、薬物療法等がある。なかでも、がん転移がない患者の場合は、外科手術でがん細胞を摘出することで根治する可能性がある。手術ではがん細胞を全て切除することが重要である。しかし、しこりや色味でがん細胞を見極めて切除するのでは、小さながん細胞を取り残してしまう恐れがある。

私の研究室では、特定の観測したい対象にアプローチした時のみ蛍光を発する機能性低分子化合物を開発している。例えば、がん細胞で特異的に発現している酵素のみと反応して初めて蛍光する化合物であり、臨床試験中あるいは薬事申請中のものもある。これ以外にも、独自の設計法を駆使し、特定の観測対象でのみ蛍光を発する機能性低分子化合物を1000種類以上開発した。これらは全て化学合成で作成した。製造コストは安く、装置の小型化が可能、保存・輸送も簡単であり、わが国における医療の効率化に貢献する可能性がある。

主にがんの外科手術時の体外診断薬として研究開発を進めているが、同技術の応用分野はそれだけにとどまらない。例えば、将来的に個人宅のトイレに同技術を適用することで、自宅で日々の健康を精密に管理できるようになるかもしれない。あるいは食品分野に適用すれば、レストランにおいて食中毒リスクの高い食材の検出に使える可能性もある。他にも、もっとたくさんの使い方があるだろう。ぜひ産業界とワクワクするアイデアを一緒に考えていきたい。

■ 人類はこれから何を食べていくべきなのか?~地球のことを考える新しい社会・産業の仕組みへのいざない(高橋氏)

私たちはこのままの生活を続けていて大丈夫だろうか。環境破壊、資源枯渇、食料不足など、今日の大量生産・大量消費型の人間活動が原因で引き起こされた地球規模の課題はあまたある。人類が地球上で存続するには、人間中心の社会ではなく「地球」を中心に据えた新たな社会の実現を本気で目指さなければならない。この変革を起こすには、これを実践する次世代人材を育成することと、最新科学を用い、地球に大きな負荷をかけている食生活を変えていくことが必須である。

次世代人材の育成という観点からは、100年後、人類が地球上のあらゆるものと共存していくうえで、特定分野の高度な専門知識を有しながらも、俯瞰的な視点で人々を結び付け新たな価値を創造する科学者が必要である。東京大学は2017年、「One Earth Guardians(地球医)育成プログラム」を立ち上げた。約50の賛同企業から、現場課題を共有する講義や実学研修の提供などの協力を得て、本学の学生が多様な課題の解決に取り組む。地球の未来を担う「地球医」を持続的に育てるため、経団連会員企業含めより多くの企業からの支援・連携をお願いしたい。

最新科学はわれわれの食生活をどのように変え得るだろうか。現在、私たちは「AI Nutrition」の基盤技術の開発に取り組んでいる。ここでは、機械学習・数理科学的手法を用いて、食・医学研究の双方の知見を合わせ、ヒトの血中の20種類のアミノ酸プロファイルから、脂肪肝をはじめ代謝性疾患など複数の疾患の発症の可能性を示すことを目指す。この基盤技術が確立されれば、未病状態から疾病への進行過程の予測や、科学的エビデンスに基づいた「食」による疾患予防・治療ができる可能性がある。さらに、この研究成果を通じて「食」の重要性を再認識するとともに、「食」の恩恵をもたらしてくれる自然資本を大切にすることの重要性を皆さんと共に考えることにより、自然や地球を資本と考える社会へ価値観を変容することに挑戦している。産業界から、「量」から「質」への価値観の転換に挑戦する同志を募る。

【産業技術本部】

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