経団連は12月9日、「FUTURE DESIGN 2040『成長と分配の好循環』~公正・公平で持続可能な社会を目指して」(FD2040)を公表した。今回から全8回にわたり、主要な施策の内容について連載する。第1回はマクロ経済運営と2040年の日本経済の姿について紹介する。
■ 日本経済の長期低迷
わが国経済は長きにわたり低迷し、中間層は衰退してきた。年間世帯所得(再分配後)の中央値は、1994年から2019年にかけて、505万円から374万円へと低下するなど、世帯所得が全体として下方シフトしている。
所得の低迷は、家計の消費余力の低下に直結する。民間最終消費支出はGDP全体の5割強を占めていることから、持続的な成長には、消費の拡大が欠かせない。そのため、所得の底上げを図り、分厚い中間層を形成していくことが、大きな課題といえる。
長期低迷によって、財政状況も悪化の一途をたどっていることにも留意が必要である。日本の債務残高対GDP比は、23年は250%を超えるなど、諸外国と比して極めて高い水準にあり、国債格付けも、イタリア以外のG7諸国に大きく見劣りしている。
■ ダイナミックな経済財政運営
わが国のマクロ経済運営は、「成長と分配の好循環」を持続させることが肝要である。そのためには、官民連携による「ダイナミックな経済財政運営」を展開していく必要がある。
まず、政府においては、長期計画的な投資や規制改革等により、民間の投資環境を改善させる必要がある。政府投資の対象としては、連載第3回のグリーントランスフォーメーション(GX)をはじめ、科学技術・産業の成長・発展やさまざまな社会課題の解決に資するとともに、事業化までの期間やリスク等に鑑みて、民間のみでは投資が困難な戦略分野・技術が挙げられる。
政府投資を「長期計画的」に行うことの重要性は、民間の予見可能性を高めることにある。政府投資の方向性が定まれば、企業においても、設備投資や人材の確保・育成を進めやすくなるためである。
企業においては、積極的な投資の拡大と賃金の引き上げが求められる。投資については、さまざまな社会課題解決に向けた積極的な国内での設備投資、研究開発投資、人への投資の拡大が求められる。
賃金引き上げについては、そのモメンタムの維持・強化が必要である。自社はもとより、取引先の中小企業においても可能となるよう、適正な価格転嫁を実現する必要がある。
なお、賃金引き上げが消費に着実に回るためには、連載第2回の全世代型社会保障制度改革を通じ、国民の将来不安を払拭する必要がある。
■ 2040年の日本経済の姿
官民連携による「ダイナミックな経済財政運営」をはじめ、FD2040で掲げるさまざまな改革を実現させた「改革実現ケース」と、そうでない「現状維持ケース」について、40年までの経済・財政の姿をマクロ計量モデルにより試算した。ここでは、家計を低・中間層と上位層に分け、それぞれについて所得や消費、税・社会保険料負担を推計している。
同試算によると、改革実現ケースでは、実質2%、名目3%程度の成長が続き(図表1)、名目GDPは40年度に約1000兆円に達するとの結果が示された。背景には、賃金引き上げのモメンタム維持・強化のほか、富裕層を含む上位層の所得税等の負担を引き上げ、その分を全家計の社会保険料負担抑制に充当する政策がある。これらにより、低・中間層の実質可処分所得が年率2.5%程度で継続的に増加する結果、分厚い中間層が形成され、力強い消費の伸びが続くと見込まれる。
さらに、改革実現ケースでは、政府債務残高(対GDP比)が安定的に引き下がるなど、財政も健全化に向かう結果となっている(図表2)。
【Team FD2040】