経団連は4月4日、東京・大手町の経団連会館で、欧州における技術革新の動向に関する懇談会を開催した。前田匡史国際協力銀行(JBIC)会長、冨山和彦IGPIグループ会長、塩野誠JBIC IG PartnersCIO、太田雅之ffVCパートナー、植田大雅NordicNinja VCシニアアソシエイトから、北欧・バルト諸国、中・東欧を中心とする技術革新やスタートアップ投資の動向ならびに日本企業との協業の機会について説明を聴いた。経団連側からは、東原敏昭副会長・ヨーロッパ地域委員長、田中朗子イノベーション委員会企画部会長らが出席した。説明の概要は次のとおり。
現在、世界情勢は変革期を迎えているが、それはビジネスにとってチャンスでもある。気候変動や人手不足といったさまざまな社会課題を解決するためには技術革新が必要であり、イノベーションのエコシステムを構築することが重要である。2017年6月にJBICとIGPIは共同でJBIC IGを立ち上げ、その後北欧・バルト諸国や中・東欧のスタートアップに出資する投資ファンドを立ち上げた。
ビッグテック(Big Tech)の研究開発拠点も多く設置されている中・東欧諸国は、ソフトウエアエンジニアを多く輩出しており、大企業で経験を積んだ人材がスタートアップに参画している。近年、人材獲得競争も激しくなり、徐々に人件費が上昇しつつあるものの、米国や西欧と比較すると低い水準である。ルーマニアのUiPathをはじめ、大型エグジットを達成した企業が次世代起業家を支援する還元サイクルも構築されつつある。また、ドイツや周辺国では、環境関連のクリーンテック投資が活発であり、製品別のCO2排出量を計測する技術の開発も行われている。最近では、デュアルユースやサイバーセキュリティ分野を中心に、ウクライナ復興に関連した動きも活発化している。
北欧・バルト諸国は、人口あたりのスタートアップ数・投資額が米国に次いで多く、スタートアップエコシステムが成熟している。ICT・デジタルのみならず、スウェーデンのNorthvoltなど、水素や蓄電池といった脱炭素化関連のハードウエアスタートアップも育っているのが特徴である。同地域のユニコーン創業者の多くは、別のスタートアップでの経験を生かしており、SkypeやSpotifyといったユニコーン企業を基軸とした好循環が生まれている。次世代にどのように経験やノウハウを循環させるのか、日本としても学べる点は多い。EUの補助金を含め、政府からの支援も手厚く、官民連携で進めていることも特徴である。アジア進出を見据え、日本企業との連携にも関心を持っており、協業できる余地は大きい。日本としても、産官学の壁を崩し、日本のスタートアップエコシステムをグローバル市場に組み込むことが重要である。
【国際経済本部】