経団連は3月13日、OECDのアンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長の来日の機会を捉え、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。シュライヒャー氏の説明の概要は次のとおり。
■ AIがもたらす変化
気候変動やコロナ禍などさまざまな変化が生じるなかで、自らの意欲や能力を新たな環境に適応させる力が重要になっている。
とりわけAIの出現は新たな課題を突き付けている。教えやすい事柄や簡単に調べられる事柄は、デジタル化・自動化がたやすいことから、今後、定型業務が大幅に減る一方、技術集約型のタスクがますます増えていくと考えられる。そうしたなか、AIに対して適切な問いかけをできる力が重要になっている。AIが人間に置き換わるのではなく、AIを使いこなせない人間が、AIを使いこなせる人間に置き換えられるのである。
教育面では、AIやバーチャルリアリティ(VR、仮想現実)の活用により、学習を個別化させ、楽しみながら学習できるようになってきている。また、現実世界では危険な訓練も、拡張現実(AR)を駆使することで可能となっている。
■ 日本の教育の現状と課題
OECDが実施している「生徒の学習到達度調査」(PISA)の最新の結果によると、日本は、学業成績で強みを発揮している一方で、情緒面でのレジリエンスや心理的なウェルビーイングでは諸外国に劣っている。さまざまな変化に適応し、考えたことを行動に移していく力を身に付けることが非常に重要である。また、日本の子どもたちは、学校が休校になっても自分で学習に取り組むことへの自信を尋ねる質問に対し肯定的に答える割合が低い。自律的に学習する意欲や自らの学習を管理する能力において課題がみられる。
■ 教育の未来を見据えた企業への期待
スイス、デンマーク、ノルウェーといった国々では、ジョブフェアを通じて、学生たちが実際の職場を体験している。一方、日本にはこうした機会が少ない。学校は現実社会と距離があるため、学校にいては現実世界が見えない。企業がインターンシップ等を通じて現実の社会を見せることで、生徒は、社会で求められるスキルを認識し、未来を見据えて戦略的に学習するようになる。
現行の教育制度では、大学側が学ぶべきことを定めて学位を授与するなど、教育機関が学習者を優越する立場にある。しかし、未来を見据えると、「何を、どこで、どのように学ぶのか、また、人生のいつの時点で学ぶべきか」を、学習者個人が主体的に決められるようになることが望ましい。そのような学習環境の実現に当たっては、マイクロクレデンシャル(注)の仕組みを整備し、雇用主がその価値を認識することが重要である。マイクロクレデンシャルは国際的な潮流にもなっており、生涯学習を促すうえでも重要な役割を担っている。
(注)学位取得を目指す学修よりもより細かく区切られた学修単位で、大学などの主体が個別に認証したもの
【SDGs本部】