経団連は3月27日、雇用政策委員会(淡輪敏委員長、内田高史委員長)をオンラインで開催した。「高齢社員の活躍推進に向けて企業側のとるべき方策~ジョブ・クラフティングという考え方」と題して、法政大学大学院政策創造研究科の石山恒貴教授が講演するとともに質疑応答を行った。講演の概要は次のとおり。
■ 企業における高齢社員の現状
日本企業は従来、高齢社員の雇用を、社会的責務を果たすための「福祉的雇用」と捉え、高齢社員本人も含めて、現役社員並みの活躍を期待してこなかった。
実際、企業で働く社員を対象にした、パーソル総合研究所「働く1万人の成長実態調査」(2017年)によると、45歳前後を境に自身のキャリアの終焉を意識する者が多数派に転じている。重要な業務は若手に任せ、自身は今までの経験を語ることに専念し、積極的に学びを深めようとしなくなる。この背景には、年齢を重ねると知能は衰えるといったステレオタイプがあると考えられる。
しかし、最近の研究によると、知能は加齢による影響をさほど受けないことが分かっている。例えば、言語能力など、知識や経験を生かす「結晶性知能」は60歳ごろまで上昇し、その後も低下しにくい。
また、仕事への熱意も、加齢によって低下するわけではない。
■ ジョブ・クラフティング
高齢社員のエンゲージメントを高めるための方策として、近年、「ジョブ・クラフティング」という考え方が注目を集めている。
ジョブ・クラフティングとは、組織や上司から与えられた職務をただ行うのではなく、社員自身が、自分にとって意義のあるやり方で、職務を再定義・再創造するプロセスである。例えば、「清掃」という業務について、「その施設の利用者を喜ばせること」と再定義し、社員自らが考え、利用者とコミュニケーションを取りながら、清掃の質自体の向上を図るとともに、清掃作業に演出の要素を加えたことは、ジョブ・クラフティングの一例といえる。
以前、ある企業の部長職を対象に、ジョブ・クラフティングに関する研修を実施したことがある。研修の冒頭に、自身の仕事に対する情熱・動機・強みを洗い出してもらった。研修前に同企業の人事部の方は「部長職の社員は、会社からの指示に従ってきた人たちが多く、仕事への情熱はないのでは」と、研修の効果に懐疑的だった。しかし、議論は大変盛り上がった。結果的にジョブ・クラフティングの計画作成がスムーズに行われたことからも分かるように、高齢社員はおのおの仕事に対する情熱・動機・強みを必ず持っている。
■ 企業の人材施策
企業は、高齢社員が成長し続けることを前提に、裁量を与え、高齢社員のジョブ・クラフティングを促していく必要がある。そのうえで、高齢社員が担っている仕事や役割を適切に評価し、高齢社員を動機付けていくことが、企業には求められている。
【労働政策本部】