経団連は3月25日、東京・大手町の経団連会館で審議員懇談会を開催した。十倉雅和会長ならびに冨田哲郎審議員会議長をはじめ、審議員ら約200人が参加。慶應義塾大学経済学部の小林慶一郎教授から、「フューチャー・デザインと経済財政の見通しについて」と題して講演を聴くとともに意見交換した。講演の概要は次のとおり。
■ 財政の持続性をめぐる問題
日本の財政状況をみると、歳出が税収を大きく上回り、債務残高の対GDP比率は、他の先進国と比較して高い水準にある。財政の持続性を維持するためには、約70兆円分、GDP比にして14%の収支改善が必要と試算されている。仮に消費税率の引き上げで実現するならば、税率を30%に引き上げる必要があるが、これは現実には難しい。
また、経済成長率が金利を上回り続ける限り財政破綻は起きないという議論がある。しかし、日本のこれまでの状況を振り返っても、金利は成長率よりも高い状態で推移することが定常的な現象とみるのが自然である。「金利<成長率」の状態を続けようとすることが、財政の持続性を担保する手段になるとは言い難い。
■ 低金利の長期化がもたらす弊害
一時的な低金利は、需要を刺激して経済拡張的な効果をもたらすとされる。一方、低金利が長期化した経済社会においては、例えば、新技術を持つが担保を持たない企業(借り手)は、低金利環境による土地代の高騰などによって、事業開始のための資金需要が増加するにもかかわらず、担保を持たないため借り入れが厳しく制約されてしまい、新事業を進めることができないといった状況に直面し得る。このように、恒久的な低金利は、借り入れ制約が厳しくなることで、新しい産業などの成長を阻害し、経済収縮的な効果をもたらす可能性がある。こうした性質からも、長期にわたる低金利政策は、財政の持続性や経済成長といった課題解決にとっての最善の処方箋とは成り難いと考えられる。
■ 世代間問題とフューチャー・デザインの実践
金融政策によりわが国が抱える財政問題という難題を根本的に解決するのは難しい以上、歳入を増やすと同時に、歳出をカットするといった地道な構造改革が必要となる。他方、これは現在世代がコストを払い、まだ生まれていない将来世代が経済財政の安定というリターンを得る「世代間問題」である。そのため、現実には解決は容易ではない。この問題へのアプローチのカギとなるのが「フューチャー・デザイン」の考え方である。
フューチャー・デザインとは、現在世代が将来世代になったつもりで現在の政策を議論するという政策討論の手法である。すなわち、現在の視点では民意の支持を得にくい政策課題についても、例えば30~50年後の政策決定者になったつもりで議論すると、短期的には不利益でも、長期的な利益を重視した意思決定を成し得るというものである。実際に、自治体での住民討論で政策変更につながった例がある。
財政問題にフューチャー・デザインの考え方を取り入れると、例えば、政治的に中立的な立場の独立財政機関を創設し、長期の経済・財政予測を公表するなど、将来世代のために思考する機関を設立するというアイデアが生まれる。金融市場の安定化のために中央銀行が整備されたように、将来の財政の安定化のために独立した機関を整備することは、正当性と意義があると考える。
【総務本部】