経団連は3月14日、グラス・ルイス社幹部との意見交換会をオンラインで開催した。グラス・ルイスの米国本社でリサーチ・エンゲージメント活動の責任者を務めるエリック・ショスタル シニア・バイスプレジデントと、日本でのリサーチ・エンゲージメント活動を担う同社日本法人の上野直子バイスプレジデントから説明を聴くとともに意見交換した。経団連側からは、日比野隆司金融・資本市場委員長、佐藤雅之同委員長のほか、80人を超える参加があった。グラス・ルイスからの説明の概要は次のとおり。
■ ショスタル氏
当社の活動は投資家のみならず、企業を含む全てのステークホルダーの協力によって支えられている。世界で1300社以上、日本で300社以上の企業とエンゲージメントを行い、助言の透明性確保に注力している。企業に対し、助言の基となるデータについて事前に検証する機会を提供する一方、助言レポート発行後には、企業の見解を投資家向けに公表する仕組みも用意している。40カ国以上でその国独自の議決権行使ガイドラインを用意するとともに、地域スタッフが担当国に関する知識の拡大に取り組んでいる。また、助言に関する利益相反を管理し、常に開示することで、公正性・中立性の確保に努めている。
サービスの質、利益相反の開示、各ステークホルダーとのコミュニケーションを定めたベストプラクティス原則を策定し、遵守している。当社の活動は、投資家、企業、学識者からなる監督委員会によって評価されている。
日本では、スチュワードシップ・コードの受け入れを表明し、助言の正確性向上のための施策を進めている。近年はリサーチ対象企業数が増加傾向にあり、日本での当社の存在感が高まっている。
当社はグローバルでの調査に基づき最新のトレンドを反映した助言方針を公表している。その一方、多くのクライアントはそれぞれのニーズを踏まえカスタムした指針を使っているため、助言方針は選択肢の一つに過ぎないということを理解してほしい。
■ 上野氏
2024年の日本向け助言方針に、プライム市場上場企業に対し、取締役会における女性比率10%以上を例外なく求めることを導入した。従来、企業側で女性比率に関する合理的な方針や目標を開示した場合には例外的に反対助言を控えてきた。そのような例外適用を廃止するとともに、26年からは、世界基準に近づけて20%以上を求めることとなる。
気候変動対策に関しては、23年まではクライメート・アクション100+(注)の対象企業のみであったところ、日経平均株価の構成銘柄で、サステナビリティ上重要と位置付けられる企業にまで対象を広げ、取締役会の監督機能の開示を要請する。また、サイバーリスク対策の重要性が高まるなか、サイバーリスク対策への監督責任に関する開示を要請する。
これまで、政策保有株式が対連結純資産の10%以上の場合は、明確な縮減目標・時期を開示していれば反対助言を控えていた。また、政策保有株式が10%以上20%未満の場合は、過去5年間の自己資本利益率(ROE)の平均が5%以上であれば反対助言を控えていた。25年からは例外条項の適用を厳格化し、5年以内に対連結純資産20%以下にするための縮減計画を開示するよう求める。また、政策保有株式が10%以上20%未満で、事業上その保有が不可欠であるならば、過去5年事業年度の平均ROEあるいは直近事業年度のROEについて8%以上を要求する。全社外取締役・監査役の在任期間が12年超の場合、責任を有する取締役に反対助言する方針も打ち出す。
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その後の意見交換では、(1)社外取締役の兼職制限に対する助言方針の考え方(2)助言会社の登録制等の規制導入に対する考え方(3)コンプライ・オア・エクスプレインのエクスプレイン部分に関する拾い上げ不足(4)株価純資産倍率(PBR)1倍要請に関する考え方(5)取締役会の最適な構成についての考え方――等のトピックについて活発に意見交換した。
(注)世界の機関投資家による気候変動イニシアチブが結集したグローバルイニシアチブ。17年12月に発足
【ソーシャル・コミュニケーション本部】