経団連のアメリカ委員会(澤田純委員長、早川茂委員長、植木義晴委員長)は3月12日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。米国先端政策研究所(CAP)のグレン・S・フクシマ上級研究員から、2024年11月に実施される米国大統領選挙をめぐる最新情勢について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ トランプ氏の訴訟問題
現時点では、民主党のジョー・バイデン大統領、共和党のドナルド・トランプ前大統領がそれぞれの党の候補者となることが本命視されているものの、情勢はいまだ流動的である。共和党では、トランプ氏が圧倒的な支持を得ており、7月の全国党大会で指名を受ける公算が大きい。ただし、トランプ氏は21年1月の米連邦議会占拠に絡む事件、政府の機密文書を持ち出した事件、ジョージア州の大統領選結果を覆そうとした事件、ポルノ女優への口止め料支払いに関する簿記改ざん事件――の4件の刑事訴訟を抱えており、これらの行方が立候補に大きく影響する。
この4件は、それぞれ錯綜した経緯があり、本選挙後まで結審しない可能性がある。世論調査によれば、もし有罪となり、収監されれば支持率は急落すると予測されている。仮に有罪となっても、大統領選への立候補自体は可能だが、党内からは代替候補を立てるべきという声が上がるだろう。その場合、穏健派で手腕が高く評価されるグレン・ヤンキン・バージニア州知事が浮上する可能性が高い。
■ バイデン大統領の再選を阻む壁
他方、バイデン大統領の再選には三つのハードルがある。第一に、現在81歳と高齢である点だ。バイデン大統領は当初、「次の世代にバトンを渡す」と1期限りで退く考えを示唆していたが、政権奪取の成功が自信を与えたのか、再選を目指す方向に姿勢を転じた。党内には多数の若手有力候補が控えており、世代交代を望む声は根強い。第二に、経済情勢は比較的順調なのに支持率が上がらないという、バイデン大統領の政治家としての不人気さと、現在のイスラエル・ハマス戦争をめぐっての若者と民主党左派の支持離れがある。第三に、第三党候補の動向である。第三党候補は、選挙で勝つ可能性はないものの、激戦州が7州のみのため、選挙結果に大きな影響を及ぼす可能性がある。1992年の大統領選では、ロス・ペロー氏が19%の票を得て共和党のジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)の再選を阻んだ。2000年にはラルフ・ネーダー氏がフロリダ州で9万票以上を得て民主党のアル・ゴア氏の当選の芽を摘んだ。今回もロバート・ケネディ・ジュニア氏やコーネル・ウェスト氏らの立候補によって、リベラル派を中心にバイデン票の一部が流出するのは必至である。
■ 異なる「米国の未来像」
バイデン大統領、トランプ氏それぞれの陣営が目指す「理想の米国」は対照的である。バイデン大統領は労働組合重視の姿勢を鮮明にし、製造業の国内回帰と格差是正を通じて「強い米国」の再来を志向する。一方、トランプ氏は同盟国に依存せず、自国の利益最優先の冷戦時代初期の「超大国米国」を理想とする。バイデン大統領が再選されれば現在の路線を踏襲するだろう。一方、トランプ氏は政権に返り咲けば、バイデン大統領の政策を根底から覆すと公言している。
大統領選と同日投票の連邦議会選挙も、結果によっては、米国政治の大きな転換点となる。上院は民主党が1議席差の過半数を占めているが、多数党が入れ替わる可能性は十分にある。下院が現在の共和党多数を維持すれば共和党が上下両院を制することとなる。24年の大統領選の結果は、米国の内政と外交を大きく変える可能性があり、11月5日の投票日が近づくにつれ、世界の関心も高まっていくに違いない。いずれにせよ、今後8カ月間にどのようなことが起こるか分からない。世界の方向性を左右する24年の選挙戦に注視すべきであろう。
【国際経済本部】