経団連は3月6日、東京・大手町の経団連会館で都市・住宅政策委員会(菰田正信委員長、髙下貞二委員長、大久保哲夫委員長)を開催した。早稲田大学創造理工学部建築学科の田辺新一教授から、建築分野のカーボンニュートラル(CN)に向けた現状や課題に係る考えを聴いた。概要は次のとおり。
エネルギー自給率をはじめ、わが国の状況をよく把握したうえで、CNの実現に取り組む必要がある。
日本の二酸化炭素排出量のうち、住宅・建築分野が関係する業務その他部門、家庭部門、非エネルギー起源は合わせて全体の約4割に上り、対策が重要な分野である。特に東京都のように産業部門の排出量が少なく、業務その他部門や家庭部門で排出量の大宗を占める地域では、住宅・建築分野における対策は必須といえる。
政府の「第6次エネルギー基本計画」は、省エネルギーの深掘りを求めている。住宅・建築分野では、新築・改修による省エネのほか、高効率な照明や給湯器の導入による省エネが期待されている。加えて、住宅や建築物内の電力使用量の見える化や設備の制御等を行うエネルギー管理システムによる省エネにも期待が寄せられているものの、その活用拡大は今後の課題である。
また、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)では、全ての新築住宅・非住宅に国の省エネ基準への適合を義務付けることとしている。今後も基準は強化されることから、先を見据えた対応が必要である。こうしたなか、断熱や設備の効率化と太陽光発電を組み合わせて大幅な省エネを達成したZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)が増えている。新築戸建注文住宅では、足元で全体の3割強、全国に営業拠点のある大手住宅メーカーに限ると約7割が該当している。
他方、住宅・建築分野における排出削減を考えるに当たっては、運用時のエネルギー消費(オペレーショナル・カーボン)に加えて、製造・建設・運用・廃棄段階を通じた「エンボディッド・カーボン」にも着目する必要が国際的に高まっている。日本では建設時の排出量の計算手法について検討が進められている。
今後、わが国では2035年を見据えたエネルギー政策の議論が始まる予定である。住宅・建築分野では、運用時だけでなくエンボディッド・カーボンへの対策が不可欠となる。また、ネットゼロを考慮した住宅・建築物のあり方の議論も必要になるだろう。さらに、再生可能エネルギーの活用促進に向けて、蓄電池を利用するなどエネルギー需要側の工夫も重要になる。
【産業政策本部】