経団連の農業活性化委員会(佐藤康博委員長、磯崎功典委員長)は3月5日、茨城県つくば市の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)本部を視察した。わが国の農業・食品産業を支える基盤技術とともに、Society 5.0の実現を目指した最先端の研究開発の状況と社会実装への課題について、それぞれの研究部門から説明を聴いた。
視察後、久間和生農研機構理事長らと、同機構の研究開発戦略や農業研究と産業界との連携の方向性、スマート農業の今後の展開や食の輸出産業化等をめぐり意見交換した。視察の概要は次のとおり。
■ 農業生物資源ジーンバンク事業(遺伝資源研究センター)
同センターは、農業・食品分野に必須な植物、微生物、動物(家畜・昆虫)の遺伝資源の収集・受け入れ、増殖・保存、特性評価、配付等を行っている。現在、ジーンバンクでは、遺伝資源を合計約28万点保存している。また、遺伝資源を広く社会で活用していくために、野菜等の遺伝資源のゲノム、新機能情報を解明・付加して、民間種苗会社等への提供等にも努めている。
■ 「みどりの食料システム戦略」実現に向けた有機農業研究(中日本農業研究センター)
環境に配慮した持続可能な食料システムの構築に向けて、同センターでは、減肥栽培システムや減農薬・有機栽培システムの研究に取り組んでいる。とりわけ国内外において大きな需要が見込まれる有機イチゴは、これまで病害虫への対処や栽培管理等の面で栽培は困難とされていた。そこで、有機イチゴの安定生産技術体系の確立を目指し、これまで農研機構等が開発した病害虫防除や土壌管理技術等を組み合わせた栽培試験に取り組み、目標数量を達成した。今後は生産現場への普及を目指し、収量増加、低コスト・省力化等の課題に取り組んでいく。
■ ロボティクス人工気象室(農業情報研究センター)
これまで品種や栽培技術の開発においては、実験データを得るまで多くの時間と労力がかかり、圃場では環境が不安定で年1回しか評価できないなど、再現性に課題があった。そこで、同室では、さまざまな環境条件を再現・実現する「栽培環境エミュレータ」と、作物の形質を自動で計測する「ロボット計測装置」を用い、高度な人工環境制御・自動形質評価・データ解析による研究の加速化を可能とした。世界的な気候変動にも対応した品種・栽培技術や需要期に合わせた生産等につなげていくことを目指している。
■ 社会実装に向けたロボット農機開発(農業機械研究部門)
農業従事者の減少や高齢化への対応として、農作業の自動化をはじめ、情報共有の簡易化、データの活用等といったスマート農業の早期実装は不可欠である。「日本再興戦略2016」(16年6月閣議決定)で掲げた目標を達成すべく、スマート化に向けた研究開発を進めており、例えば、ロボット田植え機等を22年に市販している。現在は、圃場間の移動も含め遠隔で操作・監視でき、深層学習を用いて障害物や農道の領域も自動で検知することのできる遠隔監視型ロボットトラクターの実証試験に取り組んでいる。
■ 果実生産の省力化技術開発(果樹茶業研究部門、農業機械研究部門)
わが国の果樹農業は、生産力の強化と生産数量・輸出拡大の同時達成が喫緊の課題となっている。そこで現在、樹形をV字等に仕立てる省力樹形や動線の単純化、農業用追従ロボット等の技術開発に取り組んでいる。実際、農作業の時間削減や疲労度の軽減効果が確認されていることから、今後、生産現場への早期普及に努めていく。
【産業政策本部】