経団連は3月4日、宇宙開発利用推進委員会(漆間啓委員長)を都内で開催した。内閣府宇宙開発戦略推進事務局の風木淳事務局長から、2023年6月に閣議決定された宇宙基本計画の進捗と、現在政府にて策定中の宇宙技術戦略の案について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ わが国の宇宙政策
23年6月13日、岸田文雄内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚が構成員を務める宇宙開発戦略本部による了承を経て、第5次宇宙基本計画が閣議決定された。
24年1月の小型月着陸実証機「SLIM」によるわが国初の月面着陸や2月の基幹ロケットH3の打ち上げ成功といった明るい話題が記憶に新しいように、宇宙開発は急速に進んでいる。内閣府宇宙開発戦略推進事務局では、宇宙政策担当大臣の指揮のもと、宇宙基本計画の実行のための予算確保や関連省庁との密な連携により、宇宙政策を総合的に推進している。
■ 宇宙政策をめぐる環境
変化する安全保障環境下において宇宙空間の利用が加速している。ウクライナ危機では、民生利用に加え軍事作戦支援や戦場動向把握に、米欧企業が提供する商用宇宙アセットがフル活用された。また、能登半島地震のような大規模災害への対応や、カーボンニュートラル(CN)といった地球規模課題への対応をはじめ、今日の経済・社会活動において宇宙システムへの依存度が高まっている。宇宙へのアクセスの必要性は増大しており、各国は他国に依存せずに宇宙輸送システムを確保することを重要視している。
さらに、月以遠の深宇宙を含めた宇宙探査活動の活発化、衛星軌道上の混雑化など宇宙空間の安全かつ持続的な利用を妨げるリスクへの対処も求められる。
このような広範な環境変化の表れとして、世界の宇宙産業は今後年率5%増の勢いで成長し、40年には1兆ドル超の市場規模になるとの予測もある。
■ 宇宙基本計画の進捗
23年11月に「デフレ完全脱却のための総合経済対策」が閣議決定された。そのなかで、宇宙はフロンティア産業として取り上げられ、総額1兆円規模を目指す宇宙戦略基金を設け、民間企業・大学等による複数年度にわたる宇宙分野の先端技術開発や技術実証・商業化を支援するとされた。これは、単一省庁ではなく「国」として宇宙に対し投資を行うことを意味し、その意義は大きい。
現在、宇宙戦略基金の事業開始に向け、基本方針と実施方針を関連省庁で策定中である。同基金では技術開発テーマの性質等に応じ、委託・補助の2パターンの支援を想定しており、技術の成熟度に応じ自己負担割合を調整する予定である。24年4月以降に基本方針および実施方針を決定した後、同方針に基づき宇宙航空研究開発機構(JAXA)で審査・運営体制の整備や公募要領等の準備を進めたうえで、事業公募を開始する。
あわせて、産業界に関係の深い契約制度の見直しについても、宇宙基本計画工程表に基づき着実に進める。
■ 宇宙技術戦略案
宇宙基本計画では、わが国の勝ち筋を見据えながら開発を進めるべき技術を見極めるため、宇宙技術戦略を新たに策定することを決定した。23年9月以降、宇宙政策委員会の各小委員会(衛星、科学・探査、輸送)で議論を重ね、24年2月26日に同戦略案を公表した。3月にパブリックコメントを募集し、24年度内にも取りまとめる予定である。
同戦略は、宇宙戦略基金を含め、今後、関連省庁の予算執行の際に参照するとともに、海外の技術動向分析等による最新状況を踏まえて毎年度見直していく。
■ おわりに
世界の宇宙政策・産業の動きは非常に速い。民間側もこの速さに危機感を持って、宇宙ビジネスを進めてもらいたい。その際、課題があれば政府にぜひ投げかけてほしい。政府が必要な制度を見直し、民間がビジネスを積極的に展開する――そういう好循環を官民で進めたい。
【産業技術本部】