21世紀政策研究所(十倉雅和会長)は2月20日、東京・大手町の経団連会館でセミナーを開催した。同研究所で客員研究委員を務める東京大学東洋文化研究所の佐橋亮准教授が、「2024年とこれからの国際政治を展望する」と題し講演した。
佐橋氏は冒頭、24年は、25年以降の国際政治を中期的にみるうえで非常に重要な年であると語り、グローバル化の後退や国際経済秩序の緩みが引き起こす「窮屈な世界」が到来する前に、日本の経済界や企業が備えておくべき事柄や取り組むべき方策を示した。概要は次のとおり。
■ 新しい構造としてのインド太平洋システム
今の国際秩序を特徴付けている大きなファクターは米中対立である。米国のジョー・バイデン政権はこの3年間、中国を正面に見据えて、軍事のみならず経済安全保障の面でも同盟国・パートナー国との連携を深めており、QUAD(日米豪印戦略対話)やAUKUS(米英豪によるインド太平洋の安全保障枠組み)、日米韓首脳会談などでイニシアティブを発揮してきた。このような米国の新しい秩序形成のなかで日本が担う役割は特に重要とされており、今後さらに増していくだろう。これらの試みは東アジア地域の予見可能性を高め、安定に導く。
■ 厳しさを増す国際情勢と米国の内政
一方、それらの地域以外や米国の内政に目を移すと厳しい状況がみえてくる。ウクライナについては国際社会の支援疲れによる士気の低下が心配され、中東情勢は混乱含みで先行きが見通せない。また、米国議会も混乱の様相を呈しており、24年11月に控える米国大統領選挙はバイデン大統領とドナルド・トランプ氏との再戦が現実味を増す。われわれはトランプ政権の再来を今から真面目に考え、ワーストケースまで想定し備えておく必要がある。
■ 望ましくない二大ブロック化を防ぐために
このままだと大国間競争がますます激しくなり、望ましくない二大ブロックの世の中が到来する懸念が高まる。そこでは規格やルールが全く違うためモノの融通やヒトの交流はなく、議論を交える場もない。日本がこれからの国際秩序に向き合っていくうえでは、欧米主要国およびグローバル・サウスとの連携を重視しつつ、中国との対話も継続していくことが肝要である。大国間競争による世界の分断を防ぎ、多層的な秩序構築を推進することが日本外交の活路となる。
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佐橋氏は日本の企業へのメッセージとして、従来のグローバル化や国際協調などを前提にしない「予測力」を高める必要性に言及した。そして、企業の経営戦略や社内教育として、これまで以上に国際情勢を注視し、米国連邦政府やEU本部など先進諸国・地域の動向をよく知ることが大切であると語った。
また、講演後の質疑応答では、経済封鎖・断絶に企業としてどのように備えておくべきかとの質問があった。これに対し佐橋氏は、台湾有事を例に挙げ、発生の有無を議論するのではなくさまざまな段階やシナリオを想定したうえで、このケースでは自社への影響はどのくらいか、どのように周囲と連携して助け合えばよいか、などを考えておく必要があると応じた。
【21世紀政策研究所】