経団連は1月31日、東京・大手町の経団連会館でイノベーション委員会(安川健司委員長、稲垣精二委員長、田中孝司委員長)を開催した。東京医科歯科大学(TMDU)の田中雄二郎学長から、産業界との連携と今後の取り組みについて説明を聴いた。TMDUは2024年10月1日に東京工業大学と統合し、東京科学大学が誕生する。概要は次のとおり。
■ TMDUとは
TMDUは医学と歯学を包含する医療系総合大学である。近年は従来の医療だけでなく、AI・ビッグデータなどの先端技術も学ぶことができる。カリキュラムの特徴として、半年間授業がない代わりに研究する機会のほか、3~5カ月程度の海外派遣で国際的な視野を育むチャンスを設けるなどしている。
また、社会と共にある医療機関でもある。能登半島地震では、被災地に約100人の医療スタッフを派遣している。救急にも注力し、コロナ重症患者の受け入れも都内最多だった。これは「力を合わせて患者と仲間たちをコロナから守る」を合言葉に大学全体で取り組んだことに加え、約1.7億円もの募金など社会からの熱い応援があったからこそである。その応援の心強さが東京工業大学との統合の後押しにもなった。
■ TMDUが開く明日の医療
TMDUは最先端医療の開拓の一端を担っている。病気を引き起こす遺伝因子や環境因子は各患者で異なるため、各因子に着目して医療を行うのが個別化医療である。例えば、ゲノム解析で糖尿病のリスクが高いと判明した場合、発症前の早期に予防措置を採ることができる。ハリウッド俳優であるアンジェリーナ・ジョリー氏の乳がんの個別化医療でも、遺伝子研究の成果が活用された。
新型コロナウイルスのmRNAワクチンに代表される核酸医薬の領域では、アルツハイマー病に効くヘテロ核酸医薬や、再生医療に貢献するmRNA医薬、新型のウイルスに効くペプチド医薬などの研究開発を進めてきた。このほか、ロボットアームの触覚を伝える手術ロボットSaroaや、口腔内スキャナで歯の形態データを記録するデジタル歯科、予防に向けたヘルスケア分野にも注力している。
■ 東京科学大学の可能性
今後TMDUは世界最高水準の東京科学大学となって、社会課題を発見し、社会と共に解決していくために、産学連携を強化していく。現在、その一環として新規事業創出を目指す包括連携を実施している。演奏の質向上を目指す音楽歯科や、予防・健康管理サービスの質向上を目指すITサービス、睡眠時無呼吸症候群と運転の安全性に関する実証実験など、企業との連携事例も数多くある。
産学から950を超える機関が参画する医療系産学連携ネットワーク協議会(medU-net)は、全国医療系アカデミアの窓口、研究者、医療者、研究シーズを効率的に探せる仕組みを整備している。TMDUはその幹事校も務めている。また、医療ビッグデータを学内外へ提供し、データ駆動型研究で新産業の創出につなげていく医療データ社会還元プラットフォームを展開している。
さらに、医療デザインプログラムでは、医療現場の見学・体験・議論を通じ、医療・ヘルスケアに関する課題解決の方法や新たな産業ニーズを見いだす機会を提供している。会員制コミュニティ(tip)では、TMDUの医学系研究者や医療ヘルスケアベンチャーとつながり、最先端の医歯学の研究動向を知ることができる。
東京工業大学との統合で医学と工学の異なる視点を取り入れながら産学連携を深化させることで、社会と共に「well-being for all(全ての人の幸福に貢献する)」を実現したい。
【産業技術本部】