経団連は2月1日、知的財産委員会(津賀一宏委員長、遠藤信博委員長、時田隆仁委員長)と同企画部会(和田茂己部会長)の合同会合を東京・大手町の経団連会館で開催した。一橋大学イノベーション研究センターの江藤学教授から、ルール形成における標準化の価値とその活用方法について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ ルール形成における標準化の価値
日本はかつて欧米が決めたルールに適合し、安く良い製品を作ることに強みを発揮してきた。しかし21世紀に入り、欧州はじめ各国・地域が市場保護のためにさまざまなルールを形成、展開するようになった結果、ルールを自ら作らなければ勝てない時代が到来した。
国際条約や国内法規、企業内規格に至るまで、適用範囲や強制力の程度によってあまたのルールが存在する。コンセンサスを得る範囲によって強制力をコントロールできることが標準の特筆すべき価値であり、これこそが標準化戦略を構想するうえでの本質といえる。
■ ビジネスエコシステム時代のオープン・クローズ戦略
技術のクローズ化(秘匿や知財)による利益確保と、オープン化(公開や標準化)による市場拡大とを両立させるのが「オープン・クローズ戦略」である。「誰もが使えるが、自分しか作れない」という状況を生み出すことが理想であり、半導体などは分かりやすい事例といえる。
サプライヤーだけでなく、ユーザーにとっても価値を生むビジネスエコシステムにおいて自社が埋没しないようにするためには、クローズ(知財等)で自らの役割を生み出しつつ、オープン(標準化等)でネットワーク外部性を拡大してエコシステム全体の価値を増大することが重要である。
■ 適合性評価の重要性
エコシステムにネットワーク効果が組み合わさることによって、製品価値の範囲が拡大している。かつて製品価値はカタログなど企業が提供する情報とほぼ同義であったが、ITの発展に伴い口コミなどユーザーが発信する価値の比重が増大した結果、CO2排出量や人権配慮等の価値を看過できなくなった。こうした価値は第三者による証明が必要となることから、適合性評価や認証の重要性が増している。
適合性評価においては、欧州を中心とする巨大認証機関がルートやステークホルダーの役割を決定するスキームオーナーとしての機能を担っている。翻ってわが国では、日本産業標準調査会(JISC)による「日本型標準加速化モデル」でも指摘されているとおり、認証機関が小規模であり、ビジネスマインドやスキーム発案・設計能力も欠如していることが課題である。
■ エコシステム時代の国際標準化
国際標準化は、グローバルな市場獲得をめぐる熾烈な闘いにほかならない。
試験方法の標準化は競争を単純化させるため、技術漏えいにつながる。例えば異種接合技術に関する試験方法をISO規格化したところ、海外で類似技術が多数生まれ、市場を奪われた事例が生じている。また、ある製品の性能をクラス分けする標準を作られ、日本製品の優位性が奪われた例もある。
エコシステム時代の国際標準化においては、20年後に実現しているであろう将来の社会像を描きつつ、垂直的・水平的連携を勘案した広範なエコシステムを構想する力、待ちの姿勢にならない戦略の設計が求められる。
【産業技術本部】