経団連のアメリカ委員会(澤田純委員長、早川茂委員長、植木義晴委員長)は1月29日、東京・大手町の経団連会館で冨田浩司 前駐米国特命全権大使との懇談会を開催した。説明の概要は次のとおり。
■ 米国政治の分断
ドナルド・トランプ前大統領のキャッチフレーズは、「米国を再び偉大にする」である。米国が前に偉大であったのは、恐らく第二次大戦後のパクス・アメリカーナの時代であろう。当時は、経済力でも軍事力でも米国が優位であった。その後、保守主義が強まり、国民の政治への信頼は著しく低下した。こうした背景で、政治の分断を招いた直接的な要因となったのは、2008年のリーマン・ショックである。グローバル化への不信が広がるとともに、ウォール街を中心にポピュリズムが台頭し、政治は分極化から機能不全に陥った。このような状況において、トランプ氏は、米国の経済成長の恩恵を十分に受けられなかった白人の中流階級の支持を得ている。
■ トランプ氏の強みと、バイデン大統領の支持低迷
トランプ氏の強みは、「岩盤支持層」を持つことにある。トランプ氏を必ず支持する層が、共和党支持者の3分の1程度を占める。これまでは、たとえ共和党内で勝利しても本選では勝てないだろうと考え、トランプ氏への投票を控える層が一定数いた。しかし現在では、トランプ氏の支持がジョー・バイデン大統領の支持を上回る世論調査の結果も出ており、エレクタビリティ(electability、当選可能性)の課題も緩和しつつある。加えて、他の候補者は知名度を一から築き上げる必要があるが、トランプ氏はバイデン大統領と同じく「現職」のような知名度を持つことが強みである。その点でもバイデン大統領とトランプ氏の差がつきにくくなっている。
バイデン大統領の支持が低迷している理由の第一には、インフレがある。物価指数は一時期より落ち着いているにもかかわらず、消費者は食料やガソリンといった生活必需品の値動きに一層敏感で、そうした感覚に左右されがちである。加えて、コロナ禍での4.6兆ドル規模の経済対策がパンデミックの終息とともに終了し、現金給付や手厚い失業手当、家賃の支払い猶予といった恩恵が受けられなくなったことも米国民の不満の一因となっている。
■ 今後の見通し
前回選挙の再現が現実味を帯びつつあるが、米国民の過半数はこの組み合わせを望んでいない。バイデン大統領かトランプ氏かの、いわば「消極的な選択」になるため、どちらかが圧倒的な優位を築くことは想定し難い。最終的には、接戦州のなかでも、二大政党のどちらが勝つかが土地柄あらかじめ決まっていない、ほんの一部の「接戦郡」で勝敗が決まることになるだろう。このようなミクロの争いの結果を見通すことは極めて困難である。
仮にトランプ氏が再選された場合、特に、大統領の権限の範囲内にある外交や安全保障といった分野で、予見可能性が低下することが懸念される。一方、対中姿勢の厳しさは米国議会全体としての基調であり、この政策方針は継続するだろう。同盟国である日本としては、トランプ氏とのコミュニケーションを重視すべきである。
ただ、日米関係の基盤には両国の緊密な経済関係がある。大統領選結果のいかんにかかわらず、盤石な日米関係が継続することを期待する。
【国際経済本部】