経団連は12月19日、東京・大手町の経団連会館で観光委員会(菰田正信委員長、武内紀子委員長、野本弘文委員長)を開催した。コロナ禍後の観光における「質の観光」の強化と「地方誘客」の促進、インバウンドの急拡大に伴う諸問題とその対応について、持続的な観光と観光地域のマネジメントの観点から、早稲田大学大学院経営管理研究科の池上重輔教授が講演した。概要は次のとおり。
■ 旅行・観光開発指数世界一の日本で、観光産業におけるパラダイムシフトを
世界経済フォーラムが隔年で公表している「2021年旅行・観光開発指数」(Travel & Tourism Development Index 2021、22年5月)によると、日本の同指数はその潜在力を含め、世界第1位になった。19年には訪日外国人旅行消費額は4.8兆円となり、自動車に次ぐ第2位の輸出品目となるなど、観光は産業としての存在感を確実に高めている。政府は30年に同消費額15兆円という目標を掲げており、潜在力の発揮次第でさらなる成長が期待される。
そのためには、三つのパラダイムシフトが必要である。一つ目は、インバウンド消費についても、海外への事業展開や輸出拡大と同様のグローバルビジネスであるという認識に変えることである。二つ目は、事業者が観光市場のパイを奪い合う意識を捨て、連携することである。経済、発想、実行の各面でインバウンドの活用を重視し、インバウンドとアウトバウンドの好循環を構築することにより、さらなる市場の拡大が可能になる。三つ目は、「サービスレベルと価格を合わせる」ことの再認識である。日本では「より良いモノ・サービスをより安く」「差をつけない」という考え方が根強い。しかしこうした事業のあり方は、産業自体の持続性に大きな課題を生じさせ、海外の富裕層向けのニーズとの齟齬も生んでいる。日本の観光産業における賃金水準は他の産業よりも低く、需要の変動も大きいことに加え、足元では人材不足も顕著になっている。高付加価値のサービスを高価格で提供するように転換することが求められる。
■ IOLの構築
インバウンドを持続可能な収益構造につなげていくため、インバウンド・アウトバウンド・ループ(IOL)というフレームワークを構築すべきである(図表参照)。そのためには、旅マエ(訪日前)、旅ナカ(訪日中)、旅アト(帰国後)という各行程において、「観光関連事業者」「非観光関連事業者」が地域の魅力向上のために、適切に連携する必要がある。ここにおいてインバウンドの動きは、潜在的な需要を顕在化させるための貴重なマーケティングの情報源として活用できる。また、非観光事業者は「経験価値化」に注力し、長期戦略や独自のテーマに沿って「地域連携」を行うことにより、地域の魅力を持続的に向上させることが可能となる。このループが循環すれば、観光自体の「高付加価値化・高価格化」が進み、産業としての持続的な収益構造を構築できる。
日本の観光は世界的にも高い潜在力を有している。インバウンドの再拡大は、観光が重要な基幹産業として発展できるラストチャンスである。オーバーツーリズム等の問題も顕在化しているが、当該地域とコミュニケーションをとり、「ダイナミックプライシング」など適切な方法を導入することで、解決可能と考えられる。
【産業政策本部】