経団連の小路明善副会長/教育・大学改革推進委員長は12月19日、日本私立大学連盟の学長会議で、「全世代型教育システムの構築」と題して講演した。概要は次のとおり。
■ 「全世代型教育システム」構築の重要性
わが国はSociety 5.0、人口減少・少子高齢化、人生100年時代といった環境変化に適応すべく、教育のあり方を見直す時期に来ている。学校教育と職業教育を年齢基準で分ける発想から脱却し、産学官連携のもと、初等中等教育・高等教育から職業教育、リスキリング・リカレント教育まで一貫した、生涯にわたって学習できる「全世代型教育システム」の構築が重要である。特に、社会人が仕事と学びを行き来する「仕事と学びの好循環」を産学官が連携・協働して実現していくことが大事である。この結果、人々のウェルビーイングが向上するとともに、価値創造に資する多様な人材の育成・確保により、経済社会の持続的な成長も実現できる。
■ 企業が求める人材像
Society 5.0において、企業は、先見性・決断力・実行力を有した未来を作り上げる人材を求めている。そのため、文理を問わず、リベラルアーツ教育を通じて論理的思考力、規範的判断力、課題発見・解決能力、未来社会の構想・設計力を育むとともに、高度専門職に必要な知識・技能を修得していくことが肝要である。また、初等中等教育段階からアントレプレナーシップ教育を導入し、新産業・新事業を興せる発想力やチャレンジ精神を持った若者を育成することも必要である。
■ 経済界が求める教育政策
Society 5.0で活躍する人材の育成に向けて、(1)文理分断からの脱却(2)デジタル人材の育成(3)グローバル教育の推進(4)キャリア教育・アントレプレナーシップ教育の推進(5)子どもの才能を伸ばす多様な機会の提供(6)大学院教育の充実(国際競争力強化に資する博士人材の育成等)(7)リカレント教育の充実(8)教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進(9)産学官の連携・協働――等に優先的に取り組んでほしい。
■ 文理分断からの脱却
Society 5.0では、あらゆる分野の知見を活用して社会課題に対応することが不可欠である。特に企業のマネジメント層には、人文科学・社会科学・自然科学に関する幅広い知識が問われるようになっている。初等中等教育段階からSTEAM教育(注)を推進するとともに、高等教育では、複数の専攻分野を体系的に学修できる制度の導入やリベラルアーツ教育の実践を通じて、文理分断からの脱却を図るべきである。
■ 産学連携による大学教育の推進
大学は、経済界、国・地方公共団体、他の教育機関、地域社会など多様な主体との連携により、新しい時代に求められる人材の育成に取り組んでほしい。特に地域の産業政策を踏まえた人材育成は産業振興にもつながるため、産学連携の取り組みを強化してほしい。
また、キャリア教育やアントレプレナーシップ教育を推進するうえで、経済界で実務経験を積み重ねた人材を教育界へ派遣することも重要である。茨城県では、企業でトップリーダーだった人材が中高一貫教育校の校長・副校長に就任し、自身の強みを発揮して、教育界に新たなイノベーションを起こしている事例も出ている。
(注)五つの領域(Science〈科学〉、Technology〈技術〉、Engineering〈工学〉、Art〈芸術〉/Liberal Arts〈教養〉、Mathematics〈数学〉)を対象として、科学技術の素養を涵養するとともに、デザインや芸術、教養の要素を取り入れ創造性も育む教育
【SDGs本部】