1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2024年1月18日 No.3621
  5. ゼーリック元世界銀行グループ総裁との懇談会を開催

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2024年1月18日 No.3621 ゼーリック元世界銀行グループ総裁との懇談会を開催 -アメリカ委員会連携強化部会

ゼーリック氏

経団連のアメリカ委員会連携強化部会(豊川由里亜部会長)は12月15日、東京・大手町の経団連会館でロバート・ゼーリック元世界銀行グループ総裁(現ブランズウィック・グループ上級顧問)を招き、現下の地政学リスクに関して説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。

■ 現在の地政学的状況と特徴

現在の地政学的状況にはいくつかの特徴がある。

第一に、各国の政策において安全保障が経済よりも優先されるようになっている。輸出規制、制裁、金融規制、データフロー、サイバーセキュリティ、移民問題などが安全保障を軸に変化している。

第二に、エネルギー安全保障・気候変動の問題である。エネルギートランジションは経済的・技術的合理性よりも政策的配慮によって推進されている。エネルギー源は長期的な投資と収益性が必要である。そのため政策目標との間でいかにバランスをとるかが課題となっている。政策的な理由からカーボンニュートラル(CN)の実現を早めるなどの措置を講じた場合、すでにEUで始まっているようにカーボンプライシングや国境調整税などの議論が必要になる。

第三に、年齢分布や移民を含む人口動態の変化である。日本の出生率は人口置換水準をはるかに下回っており、深刻な労働力不足と年金問題を引き起こす。中国はこの6年間で人口置換水準が急速に低下しており、日本以上に問題は深刻である。

第四に、技術革新である。一般的に、技術革新の初期段階から技術の普及に至るまでには数十年を要するが、生成AIに代表されるAI技術の発展は目覚ましく、企業による導入も急速に進んでいる。同時にEU、米国、中国では、AIの規制に向けた動きが進展している。

第五に、中国の見通しである。中国は深刻な構造的課題に直面している。中国の経済モデルは、投資、インフラ、輸出主導の成長に依存している。中国の民間企業は中国経済の発展の行く末を懸念し、シンガポールなど他国への移転を進めている。習近平国家主席の最大の関心事は安全保障であり、自国の強化に重点を置く。習氏は産業技術に投資するが、消費者向け技術には関心を示さない。2024年1月の台湾総統選の動向に、中国は敏感になっている。

■ 企業が直面する地政学的リスクへの対策

企業が直面する地政学的リスクに備えるには、シナリオプランニングが重要になる。第一に、米中デカップリングによる影響の程度はさまざまであろうが、テクノロジー分野では分断の影響が顕著に出るため対策が必要である。第二に、各国の制裁措置に対して細心の注意を払い、組織全体でコンプライアンスを徹底することが重要である。第三に、鉱物貿易への関心が高まり、インドネシアが重要な役割を果たすことになるなど、貿易と投資のパターンが今後変化することを認識する必要がある。第四に、多国籍企業は国際的に事業を展開するだけでなく、調達、製造、流通、労働などあらゆる面で真の多国籍企業にならなければならない。

不確実性の増大に備えるためには、さまざまなシナリオを想定することが重要である。すべての突然の変化・ショック等を事前に予測することは困難である。しかし、あらかじめシナリオを想定しておけば、類似の事態が生じた際に迅速な対策を講じることが可能になる。

【国際経済本部】

「2024年1月18日 No.3621」一覧はこちら