経団連は12月14日、都内で労働法規委員会国際労働部会(市村彰浩部会長)をオンラインで開催した。日本アイ・ビー・エムの松本宗樹人事労務部長から、グローバルタレントマネジメントと人事におけるAI活用について、同社の事例を聴いた。概要は次のとおり。
■ グローバルタレントマネジメントについて
IBMコーポレーションは、1990年代初頭に大きな岐路に立たされ、外部からCEOを招いて構造改革に着手した。その結果、V字回復を果たし、その後も時代の変化に合わせた変革を継続している。
当社のタレントマネジメントシステムは、90年代より変遷している。90年代は、各国で独自システムが確立され、制度や組織、人事データも各国独自で管理していた。それが2000年代には、「地球でひとつの会社」を目指すとの方針を打ち出し、世界共通の人事制度へと変革した。人事システムは地域共通のシステム、人事データは世界で一元管理できる体制とした。
そして、10年代からは、「俊敏(Agile)な会社」を目指し、人事システムを世界共通化した。これによりグローバルで透明性の高いデータを把握することが可能となった。単なるデータの集計ではなく、リアルタイムでデータを分析し、次のアクションへつなげ、変化に素早く対応する経営を実現している。
変革の根底には、グローバルに統合するだけでなく、タレントマネジメントにおいて、「社員の自立をいかに促していくか」という考えがある。
自立を促すための施策には、三つの観点がある。1点目は、社員を育成すること。2点目は、いかにマネジャーを支援していくか。3点目は、マネジャーをはじめとしたリーダーをいかに育成していくかである。とりわけ教育については、「教育に飽和点はない」という考え方に基づき、力を入れている。学び続ける文化を支える仕組みとして、システムを活用しパーソナライズされたプラットフォームを構築している。
そのほかの施策としては、AIを活用した昇給の提案や離職防止の分析、エンゲージメント・サーベイの実施、表彰プログラム、次世代リーダーの発掘・育成などを行っている。
■ 人事におけるAI活用
人事の役割は変化している。いかに人事業務を自動化し、価値の高い業務に切り替えていくかが求められている。そこで、AI活用におけるビジョンを「社員一人ひとりに適した人事と、早く継続的な改善の実現」とした。例えば、人事部門への問い合わせ対応では、頻繁に出てきた質問を分析し、チャットボットで回答できるようにした。複雑な内容や説明が難しいケースは、人事担当者が対応する。
さらに、システムが自動的に社員のさまざまなデータを収集し、分析・報告するなど、複数のプロセスをつなげて社員をサポートする「デジタルエンプロイー(Digital Employee)」を導入している。例えば、従来は所属長が昇進を検討する際、膨大な人事データを見ながら判断していたが、同システムが所属長に必要な情報を選択して提供するため、昇進決定のプロセスの負荷軽減と質の向上につながっている。さらに、入社前書類の確認などにも活用している。
【労働法制本部】