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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2024年1月18日 No.3621 労働者や働き方の多様化を踏まえた今後の労働法制のあり方 -労働法規委員会

荒木氏

経団連は12月15日、東京・大手町の経団連会館で労働法規委員会(冨田哲郎委員長、小路明善委員長、芳井敬一委員長)を開催した。東京大学大学院法学政治学研究科の荒木尚志教授が、今後の労働法のあり方について講演した。概要は次のとおり。

■ 現行の労働法の問題

労働法は伝統的に、最低労働条件を法定し、最低基準以上の労働条件は団体交渉で決めてきた。しかし、労働者や働き方の多様化が進むなかで、労働法が定める一律の最低基準が実態に合わなくなっている。さらに、労働組合の組織率も低下しており、伝統的な労働法システムの機能不全が問題となっている。

労働者や働き方の多様化に対応するために規制内容を多様化すると、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度などのように、法制度が非常に複雑になる。多様化に対応するために諸外国でも採用されている手法として、労使の集団的合意を条件に、法定基準を現場の実態に合わせて解除・柔軟化する仕組み(デロゲーション)がある。日本でも、時間外労働を可能とするための36協定がその典型例である。しかし、過半数労働組合がない場合、過半数代表者という個人との協定でデロゲーションを認める日本の制度は異例だ。(1)過半数代表者という個人が十分な意見集約なしに法定最低基準を解除・柔軟化できる(2)約3割が使用者による指名など、違法な方法で選出されている――などの課題が指摘されている。

このような法規制の複雑化や課題の多い過半数代表者によるデロゲーション問題に対し、法規制はシンプルなものとし、現場レベルの多様化への対応を適正なものとするために、欧州でみられる従業員代表制のような制度を整備することも考えられる。しかし、産業別に労働組合が設置されている欧州と異なり、企業別に労働組合が存在する日本では、同じ企業レベルで労働組合と従業員代表制が競合するという難題が生じる。

■ 今後の見直しの方向性

以上を踏まえて、労働政策研究・研修機構が2013年7月にまとめた「様々な雇用形態にある者を含む労働者全体の意見集約のための集団的労使関係法制に関する研究会報告書」は、一足飛びに従業員代表制の導入を検討するより、まずは現行の過半数代表制の機能強化を優先し、その結果を検証したうえで、必要に応じて日本にふさわしい従業員代表制を検討すべきであるとした。

特に、過半数労働組合がない場合の過半数代表者については、その交渉力強化のための複数化や、モニタリングのための常設化、正当な手続きによる選出、その活動施設・費用の使用者負担等の制度改革が考えられる。労働組合と競合しないよう、それぞれにだけ認められる権限を明確にしておくことも重要である。

労働者を集団的に代表するチャネルの重要性は高まる。日本の労働法には就業規則の不利益変更における合理性、正規・非正規格差の不合理性など、裁判所がどう判断するか、予見可能性の低い規範が多い。労使での適切な話し合いを経た結論であれば裁判所も尊重し、予見可能性を高めることができる。加えて、個人が希望する働き方の実現の要請と集団的秩序のバランスをとるためにも、労使による話し合いは重要である。集団的チャネルのあるべき姿に関する今後の議論が期待される。

【労働法制本部】

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