経団連は11月13日、東京・大手町の経団連会館で労働法規委員会労働法企画部会労働時間制度等検討ワーキング・グループ(田中輝器座長)を開催した。東京大学社会科学研究所比較現代法部門の水町勇一郎教授が、労働基準法制の課題や今後の方向性について講演した。概要は次のとおり。
■ 労基法の歴史と概要
1947年に制定された労働基準法は、工場法等を基盤としており、同じ場所で同じ時間帯に働く近代的労働者モデルを前提とした画一的規制となっている。ILO(国際労働機関)条約を踏まえ、原則的な労働時間は定めているが、例外が認められやすく、「軟式労働時間制」とも評された。例えば、時間外労働を行わせるための規定については、36協定の締結しか法定されていない。過半数代表者の具体的選出方法も書かれていない。また、労働者は年次有給休暇の時季指定権を持ち、細切れで休暇をとることができる。欧州のようにまとめてとる義務はない。こうした法制度を背景に、長時間労働の問題が生じた。
制定から40年後の87年、ホワイトカラーの増加を踏まえて労基法の大改正がなされた。このとき、フレックスタイム制や変形労働時間制など柔軟な労働時間制度が追加されるとともに、週の法定労働時間が引き下げられた。その後、2018年制定の働き方改革関連法では、グローバル化等を背景に長時間労働の削減や正規・非正規労働者の格差是正に向けた見直しが行われた。同法には施行5年後の見直しが規定されており、24年から具体的な検討が進む予定である。この見直しでは、デジタル化と少子化、働き方の多様化といった社会変化を背景にした検討が必要である。
■ 課題と今後のあり方
労働法の実効性確保の方法には、大きく労働協約、裁判所、行政監督の三つがある。しかし、日本ではいずれも脆弱である。労働協約に関しては、企業別労使関係のもとで企業を超えた労働協約はほとんどない。また、労基法上の過半数代表者制度が実効的に機能していないという問題がある。裁判所の利用率は海外に比べてかなり低い。労働基準監督官は尽力しているものの、その数は労働力人口比で欧州諸国の約半分であるうえ、業務のデジタル化・効率化も遅れている。
以上を踏まえると、今後の労基法の改革の方向性として、まず法規制のあり方を変えるべきである。具体的には、労働者の健康と人権は保護しつつ、フリーランスなど多様な働き方の広がりを踏まえた「労働者」の定義、国家による一律の規制に代わる新たな手法の検討等が求められる。また、多様な働き方が進むなかで、法規制を趣旨・目的に応じてわかりやすく整理し、具体的な部分は当事者である労使のコミュニケーションに委ねることも必要である。あわせて、労使のコミュニケーションを実質化するために、労使の判断で労基法の規制を解除できる範囲・要件を見直したり、新たな労使自治の制度を検討したりすることが必要である。
労働時間制度に関しては、デジタル技術の進展を踏まえた健康確保のあり方や、年度途中に休業・休職を開始または復帰する労働者の年次有給休暇取得義務、兼業・副業における割増賃金の労働時間通算規制のあり方などを検討すべきである。
【労働法制本部】