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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年11月16日 No.3613 米中対立がもたらすASEANの地殻変動 -アジア・大洋州地域委員会企画部会・ASEAN経済連携強化部会

富山氏

経団連は10月25日、東京・大手町の経団連会館でアジア・大洋州地域委員会の企画部会(宮地伸二部会長)とASEAN経済連携強化部会(田中秀幸部会長)の合同会合を開催した。日本経済研究センターの富山篤アジア予測室長・主任研究員から、「米中対立がもたらすASEANの地殻変動」をテーマに説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ 米中双方と経済的つながりを強めるASEAN

この20年、中国とASEANは結び付きを強め、貿易額は輸出入とも大幅に伸びている。同時に、ASEANにとって米国は、輸出先としての重要性を増しており、例えばベトナムの2022年の対米輸出額は12年の5.5倍に増加している。

米中は、対ASEAN海外直接投資(FDI)においても主役である。近年中国からのFDIは大幅に拡大し、「一帯一路」の沿線にあるカンボジア、ラオス、ミャンマーではインフラ開発案件が相次ぐ。その結果、これらの国の対外債務に占める中国の割合が高まっている。ラオスでは3割に上るなど、「債務のわな」に陥るリスクも生じている。

■ 南シナ海と台湾有事がASEANの潜在的脅威に

米中対立とASEANの関係をめぐっては、南シナ海と台湾有事を考慮する必要がある。23年2月、フィリピンが米国に4基地の使用権を新たに与えたことは、台湾有事を想定した動きと考えられる。また、ベトナムは9月にバイデン大統領が訪問した際、米国との外交関係を2段階引き上げて、包括的戦略的パートナーと位置付けた。これは米国との関係強化を模索した結果との見方ができる。

ASEAN域内には領有権問題で反中感情を強める国と、中国への依存度を高める国が併存しており、全会一致が原則のASEANは団結することが困難になっている。南シナ海領有権問題をめぐり共同宣言を発表できなかった12年の外相会議や、共同宣言が骨抜きとなった15年の首脳会議が象徴的である。

■ 中国の景気減速の影と、風見鶏のASEAN

今後、中国景気は減速する可能性が高い。23年7-9月期の中国全体の輸入額は前年同期比で9%、同年8月のASEAN6(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)の中国向け輸出額は前年同月比で8.1%、それぞれ減少した。今後、中国の輸入やASEANへのFDIも間違いなく縮小し、ASEANを訪問する中国人観光客数も相当程度減るとみられる。

ASEANは大国の顔色をうかがいながら風見鶏外交を行ってきた。各国は「米国か中国か」を選択するのではなく、自国利益の最適化を目的に行動するため、いずれ対応に温度差が出てくるだろう。米中貿易摩擦を背景に投資が拡大するマレーシアなど、すでに米中対立で漁夫の利を得ている国も出てきている。

地域経済枠組みをみると、中国寄りのラオス、ミャンマー、カンボジアが地域的な包括的経済連携(RCEP)協定のみに加盟する一方で、インド太平洋経済枠組み(IPEF)や環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)に加盟する国もある。それぞれの枠組みのおいしいところを取ろうとする各国の思惑が見て取れる。最近、インド進出を図るベトナム企業の動きが報道されたが、IPEFの枠組みにおけるリチウム電池や半導体の調達に着目したものと考えられる。

■ 米中対立がもたらすASEANの地殻変動

米中対立により、ASEANに地殻変動が起きている。一枚岩ではない傾向を一層強めるASEANの政治的発言力は弱まり、中国景気の減速への対応で各国の明暗が分かれるだろう。また、メガFTA(自由貿易協定)や二国間協定の進展に合わせてサプライチェーンの再編が起きる一方で、経済安全保障強化と資源関連の保護主義の動きが進んでいくだろう。

【国際協力本部】

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