経団連は10月25日、東京・大手町の経団連会館で経済協力開発機構(OECD)のジョン・ドラモンド貿易農業局貿易政策課長から、変わりゆく世界のなかでのOECDの貿易政策について説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。
■ 逆風にさらされる多角的貿易体制
過去数十年、市場の自由化は経済成長の源泉と考えられていた。しかし、新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵略でサプライチェーンが混乱した経験から、効率性よりも安全性や信頼性を重視すべきとの意見が出されている。
しかし、OECDは貿易データを通じてグローバルサプライチェーンの状況を調査しているが、脱グローバル化が進んでいるという証拠はない。貿易政策は、イデオロギーではなく、証拠やデータに基づいて決定されるべきであり、OECDはこの点で貢献できる。
■ OECDの重要課題
OECDの貿易委員会では、(1)持続的で強靭なサプライチェーン(2)公平な競争条件の確保(3)デジタル貿易(4)サービス貿易(5)持続可能な貿易(6)包摂的な貿易――を優先課題としている。
(1) 持続的で強靭なサプライチェーンについては、グリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるうえで重要な原材料の供給元が特定の国に集中しているなか、代替の供給元を確保することが重要となる(注1、注2)。OECDは資源国に対して、輸出制限措置を取らないように働きかけるとともに、輸出制限措置に関する国際的な原則を検討している。
(2) 公平な競争条件の確保は、自由で公平な貿易を行う前提である。市場歪曲的な補助金や、市場よりも低い利率での融資は、公平な競争をゆがめる。WTOで各国に課されている補助金の通報義務が形骸化しているなかで、OECDは各国の補助金を監視するデータベースを構築している(注3)。補助金の議論では産業補助金が着目されがちだが、農業補助金も議論する必要がある。
(3) デジタル貿易に関しては、国境を越えて流通するデータの量が増えている一方で、その障壁も増えていることを懸念している。また、電子送信への関税を付加しないモラトリアムについては、OECDは廃止による関税収入よりも、関税賦課がもたらす投資阻害効果による減収の方が大きくなると指摘している。
(4) サービス貿易については、GXやDXを進めるのに不可欠であり、引き続き、その重要性を訴えたい。
(5) 持続可能な貿易については、製品の炭素含有量の測定方法等に対する懸念を耳にするので、企業の意見を踏まえた報告書を作成したい。
(6) 包摂的な貿易に関しては、労働者も含め、貿易の果実を公平に分配することが重要である。
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意見交換では、(2)(公平な競争条件の確保)で問題となっている補助金は、持続可能性や強靭性などの他の課題に貢献するのではないか、との意見が出された。これに対してドラモンド氏は、正当な目的のために補助金を支出する場合でも、透明性の確保や内外無差別の徹底等により、悪影響を最小限にとどめることが重要だと指摘した。
(注1)Strengthening clean energy supply chains for decarbonisation and economic security
https://www.oecd.org/trade/topics/global-value-chains-and-trade/documents/
clean-energy-supply-chains-OECD-G7-202305.pdf
(注2)Security of supply for critical raw materials
https://www.bundesregierung.de/resource/blob/
974430/2059152/913f41a5d52c8aa68b1bb0e03176879d/
2022-07-01-security-of-supply-for-critical-raw-materials-data.pdf
(注3)Government support in industrial sectors
https://read.oecd.org/10.1787/1d28d299-en?format=pdf
【国際経済本部】