経団連は10月23日、東京・大手町の経団連会館で経済財政委員会企画部会(伊藤文彦部会長)を開催した。第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストから、「あるべき経済財政運営~変わる財政政策の考え方」と題して説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 足元の日本経済
足元の日本の経済状況は、依然として需要不足にある。内閣府が公表する足元のGDPギャップはプラスに転じた。しかし例えば、GDPギャップが2%となった2008年第1四半期においても経済の過熱がみられなかったことを踏まえると、現在は完全に需要不足が解消された状態にあるとは言い難い。さらに、今後、インフレ率が安定的に2%で推移するならば、完全に需要不足が解消されるには、GDPギャップがプラス4%程度に至る必要がある。そのため、まだ需要不足の解消を図る財政政策を行う余地はある。
■ 変わる財政政策の考え方
世界においても、財政政策の考え方は変わってきている。
例えば、米国経済学会の会員を対象に実施されたアンケートの結果をみると、積極財政に賛同する経済学者が増えてきている。「大きな財政赤字は経済に悪影響を及ぼす」という質問項目について、00年の調査では賛成が40.1%、反対が20.2%であったが、21年の調査では賛成が19.7%、反対が38.6%と、賛成と反対が逆転した(図表1参照)。
また、『21世紀の財政政策』という書籍のなかで、著者である元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストのオリビエ・ブランシャール氏は、21世紀に先進国が直面した「流動性のわな」の状態では、財政政策が金融政策を代替すべきと指摘している。
さらに、ジャネット・イエレン米財務長官も、「モダン・サプライサイド・エコノミクス」(MSSE)の考え方を打ち出し、今後の成長戦略は、従来のような規制緩和や減税ではなく、労働供給や人的資本、公共インフラなどへの財政政策であると主張している。
■ 財政赤字による財政健全化
ただし米国も、日本と同様、財政健全化目標である「政府債務残高/GDP」の水準は悪化を続けてきた。そうしたなか、米国は何を根拠に財政支出を拡大しているのか。
理論的な根拠の一つが、ハーバード大学のローレンス・サマーズ教授らの論文である。同論文では、「政府純利払い費/GDP≦2%」であれば、今後10年間、米国の財政は維持可能と主張する。なお、この「政府純利払い費/GDP」の推移をみると、日本はG7のなかで2番目に財政状況が良い(図表2参照)。
また、プリンストン大学の教授らの論文では、日本が直面する「流動性のわな」であれば、むしろ財政赤字の拡大が財政健全化目標である「政府債務/GDP」を改善させると指摘している。
■ 今後のわが国の財政運営
こうした世界の潮流の変化を踏まえて、わが国が適切な財政運営を行うためには、まず財政健全化目標をプライマリーバランス(PB)の単年度黒字化ではなく、PBの多年度中立へと変えるべきである。
また足元では、出口を見据えた効果的な物価高対策を行うとともに、安全な原子力発電所の再稼働やグリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)、スタートアップの促進など「成長戦略としての財政政策」を推進することが求められる。
【経済政策本部】