経団連は9月6日、東亜経済人会議日本委員会(飯島彰己委員長)をオンラインで開催した。川島真東京大学大学院総合文化研究科教授・21世紀政策研究所研究主幹から、中国の台湾政策と両岸関係の展望について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 台湾の人々の対中感情は変化。総統選挙では無党派層の支持が重要に
「台湾」について考える際、政府の統治空間や歴史的背景など、台湾の持つ複雑性を理解する必要がある。最近の台湾社会をみると、2019年1月に中国の習近平国家主席が台湾を武力統一する可能性に言及して以来、中国への反発が増した。それに伴い、台湾では、自らのアイデンティティーについての考え方、独立に対する意識、蔡英文政権への評価、政党支持率などが大きく変化した。現地の調査によると、19年以降、現状維持もしくは独立を望む割合が急増し、22年時点で約9割弱を占めた。したがって、24年1月の総統選挙における争点は統一の是非ではなく、むしろ経済や社会政策などにあり、台湾の約4割を占める無党派層の支持の獲得が勝敗を分けるだろう。
■ 台湾有事の可能性とそれへの備え
17年秋の党大会において習政権は、20~21年ごろの全面的小康社会達成後、49年までに「社会主義現代化強国」や「中華民族の偉大なる復興の夢」の実現を掲げた。後者には、台湾統一が含意されているのだろう。今後の習政権の継続や台湾政策等において、中間点である35年に注目している。現在、中国は台湾に対する基本政策として、軍事力の強化を前提として、戦争と平和のグレーゾーンの浸透、すなわちフェイクニュースの流布や海底ケーブルの切断事故など、台湾社会にさまざまな圧力をかけて台湾内の議論を誘導し、統一を受け入れるよう仕向ける政策を採用している。圧力には、経済的な制裁も含まれる。台湾産のパイナップル、ハタ、ビール等の輸入禁止や、中国に進出している台湾企業に対して、民進党の政治家との関係を理由に巨額の罰金を賦課するといったことがある。
このような圧力負荷政策が成果を得られなかった場合、中国は武力的圧力を強め、それがいわゆる台湾有事に発展する可能性もあるだろう。ただし、留意すべきは、現在はその武力行使前の段階にあるということである。また、台湾有事の際、初期の段階で大きな影響を被るのは、中国に進出している日本企業や台湾企業である。台湾有事に備えるためには、有事に関するシミュレーションとともに、武力行使前にできること、特に台湾と協力できることを考える必要があるのではないか。
■ 台湾をめぐり増大する緊張関係。制度的に強固な日台関係の構築を
最近、防衛費増額が決まったからか、日本での台湾有事に関する議論がやや下火になったと感じる。実際には台湾をめぐる緊張関係は増している。他方、日本政府の台湾への姿勢としては、G7広島サミットの首脳コミュニケに、「歴史的に平和裏に構成された境界線というものを武力や威嚇によって変えることは認められない」との趣旨の文言が入ったことは注目に値する。
台湾との交流については、今後は日台関係を制度的に強固なものにしていくことが求められる。例えば、日本台湾交流協会や台湾日本関係協会の組織、人員の強化や定例の経済会議に経済安全保障などの新たな課題を追加することなどが考えられる。台湾の政権が交代しても変わりなく継続するような、しっかりとした体制を構築していく必要がある。
【国際協力本部】