経団連の日本ロシア経済委員会(國分文也委員長)は10月28日、都内で、米国のコンサルティング会社であるホライズン社のアレクサンダー・ザスラフスキー・シニアパートナーから、ロシア・CISの最新情勢および今後のエネルギー市場の展望等について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ ロシアの政治情勢
今般、ウクライナの反転攻勢により、ロシアは敗戦の方向に進んでいるという報道を目にするが、状況を冷静に判断しなければならない。たとえロシアが敗れたとしてもプーチン大統領自身は生き延びるだろう。国内統治は盤石であり、イランでみられたような大規模な抗議デモは起きていない。戦争中の軍事・政治両面の人材登用では、ウクライナとの戦争で成功を収めることよりも、国内支配を維持することを重視している。プーチン大統領が今後どのような人物を側近に据えるかに注目すべきである。
■ ロシアのエネルギー産業
今回の戦争は、世界のエネルギー市場とロシアとの関係に根本的な変化をもたらした。日欧米のエネルギー会社の対応はそれぞれ異なるが、ロシアへの新規投資は不可能との認識では一致している。
加えて、今後の新たな制裁によって状況は複雑化するだろう。EUは、12月5日にロシア産石油価格に上限を設ける制裁を導入すると発表している。ロシアも何らかの制裁逃れの手段を講じるため、輸出量の制限には限界があるものの、取引価格を下げることでロシアの収入を減らすという本来の目的は達せられるだろう。
また、ロシアの再生可能エネルギー開発は今後さらに失速すると見込まれる。西側からの技術支援が途絶され、自国で十分なエネルギー資源が確保できるという条件のもとで、再エネを促進する利点がないからである。
■ 中央アジア・コーカサス各国の動向
ウクライナ戦争を経て、中央アジア・コーカサス各国は、強い軍隊を持たないロシアに対してこれまでと異なる態度をとるようになった。
各国は自国の安全保障の観点から、外交相手の多様化を図っている。ロシアに代わって中国が台頭すると予想される。習近平国家主席は最近の中央アジア各国への訪問において、主権・領土保全に関して脅威があれば、中国は支援をすると明言している。中国が現実的にどのような措置を取るかは注目せねばならない。
アゼルバイジャンのエネルギー見通しは明るく、再エネ開発も活発に進んでおり、ロシアに対する政治的な依存度も低くなっている。カザフスタンはすでに世界水準のガス・石油産業を有しているが、ナザルバエフ前大統領の影響が残っており、国内の政治的混乱は依然続いている。ウズベキスタンは中央アジアのなかで最も人口が多く、高い経済成長が見込まれるが、海外投資家にとってはミルジヨーエフ大統領の政策が不安定なことが気がかりだろう。
【国際経済本部】