経団連は10月19日、労働法規委員会労働法企画部会(田中憲一部会長)と労働時間制度等検討ワーキング・グループ(池田祐一座長)の合同会合をオンラインで開催した。厚生労働省労働基準局の岡英範賃金課長から「資金移動業者の口座への賃金支払」について説明を聴いた。概要は次のとおり。
労働基準法令は、賃金を現金で支払う「通貨払い原則」を定めるとともに、労働者の同意を得た場合の例外として、銀行口座や証券総合口座(注1)への支払いを認めている。新たな選択肢として、スマートフォンを用いた決済アプリケーション「〇〇ペイ」に代表される、資金移動業者(注2)の口座への賃金支払い(いわゆる賃金のデジタル払い)を可能とすることについて、労働政策審議会労働条件分科会において議論している。実現に必要とされる制度設計の主なポイントは次の3点である。
1点目は、労働者の同意である。資金移動業者の口座に賃金を支払うにあたり、使用者は銀行口座や証券総合口座も選択肢として提示するとともに、銀行口座等との違い(滞留規制、破産時の保証等)を説明し、労働者から同意を得ることとする。
2点目は、指定要件である。資金移動業者は、金融庁が所管する資金決済法令に基づき、利用者の保護や事業の遂行に関する規制を受ける。それに加えて、賃金の確実な支払いを担保する要件を満たすものとして、厚生労働大臣が指定した事業者に限って認めることとする。
具体的な要件は、
- 破産等で賃金支払いが困難な場合、4~6営業日以内に労働者の口座残高全額を保証する仕組みを有する
- 口座残高が100万円以下となるように設定する
- 不正な為替取引等により労働者に生じた損失を補償する仕組みを有する
- 最後の残高変動日から10年以上は口座残高を受け取れる
- ATMの利用等により1円単位で賃金を現金化できるとともに、毎月1回以上は手数料負担なく賃金を受け取れる
- 賃金支払い業務の実施状況・財務状況を適時に厚労相に報告できる体制を有する
- 賃金支払い業務を適正かつ確実に行う技術的能力と十分な社会的信用を有する
――である。
3点目は、労使協定の締結である。銀行口座等と同様に、対象となる労働者や賃金の範囲、賃金支払いの開始時期等について、事業場の過半数組合または過半数代表者との書面による協定の締結を求めることとする。
今後、労働政策審議会で労働基準法施行規則の改正案が承認されれば、2023年4月1日の施行に向けて準備を進めていく(注3)。
◇◇◇
説明の後、労働政策審議会への対応を審議した。銀行口座への賃金支払いと同程度の労働者保護を確保するという制度設計の趣旨が実際の運用場面でも損なわれないよう、労使双方への周知や行政の審査体制の整備の重要性を指摘したうえで、改正案について了承することとした。
(注1)株式や債券の購入、配当金の受け取りのために証券会社に開設する口座。銀行の総合口座の証券版にあたる
(注2)為替取引を業として営む銀行以外の者のうち、内閣総理大臣の登録を受けた者
(注3)改正省令案要綱は10月26日に諮問・答申された
【労働法制本部】