経団連のアメリカ委員会(早川茂委員長、植木義晴委員長)は11月1日、マンスフィールド財団のジェラルド・L・カーティス会長の来日の機会をとらえ、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。カーティス会長による説明の概要は次のとおり。
バイデン政権の誕生によって、米国政治は中道路線をたどるだろうとの期待が広がった。実際、滑り出しは良好であった。大統領は就任時、同盟国重視の方針を打ち出して日欧諸国との関係修復に尽力したほか、パリ協定にも復帰した。また、米国内においては、新型コロナウイルス対応として、ワクチン接種を進め、現金給付策である「アメリカン・レスキュー・プラン」も成立させた。しかし、バイデン政権の支持率は、就任時の52%をピークに、その後下落を続け、先週39%を記録した。この数字は、中間選挙にも負の影響を与えるだろう。
バイデン政権の不人気の背景には、国民の期待と政権の方向性との乖離がある。つまり、米国民が安定的かつ中道的な路線を期待したからこそバイデン氏を大統領に選んだにもかかわらず、バイデン大統領はビルド・バック・ベター法案を推すなど、米国に急進的な変化をもたらすべく政治を展開してしまった。バイデン大統領は、上院議員としての長年の経験に裏打ちされた、高い交渉力を自負している。しかし、実際は、上下院とも民主党は辛うじて過半数を維持しているにすぎず、民主党内をまとめることすらも難しく、厳しい状況にある。インフレなど経済状況が悪化するなか、民主党の敗北が見込まれる。
米国の政治状況は混迷しており、分断が深い。共和党が下院で過半数を獲得すれば、政策に関する議論を重ねて法案を妥協しながら通していくのではなく、民主党に対する復讐に注力しかねない。米国における社会的な分断の特徴は、個々の政策よりも、テクノロジーの振興に伴うグローバル化に対する反発など、基本的な価値観の違いに起因することにある。実際、米国社会の人口構成が変化し、多数を占めていた白人人口の割合が減っていく現実に対し、白人は不安を募らせている。以前は、組合や労働者が民主党を支持し、教育水準の高い富裕層が共和党を支持する傾向にあったが、今は逆である。トランプ氏は、自分の支持者の怒りを煽ることで、自身へのさらなる支持につなげようとしており、この戦略的な手法が米国全体の分断を加速している。
日米関係はかつてないほどに良好であり、両国は戦略的なパートナーシップの関係にあるといってよい。注目すべきは、米国がリーダーシップを発揮できていない部分を日本が補完している点である。米国がTPPを離脱した後、日本が環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)を成立させた。日米豪印戦略対話(QUAD)や、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)も日本発のアイデアである。米国では、中国への敵対感が加速している。米国よりもはるかに中国との歴史が長い日本が、日本なりの中国の見方をバイデン政権に伝えることが重要である。
【国際経済本部】